CANDY
レンヴというピンクの果物とグゥアバとパッションフルーツを買って、朝それらを食べてから日本人学校に出かける。
学校はすべて日本語だ。
それでも学校の外では勿論僕らは中国語を話す。
アメリカンスクールも日本人学校の向いにあるのでマンションには当然西洋人がいる。
外人とは言わない。
外人と言ってしまうと、僕らも外人だからだ。
マンションにはプールもある。卓球もある。ビリヤードもある。
イギリス人とビリヤードをやる。
たいてい僕が勝つ。
アメリカ人とイギリス人と毎日スケボーで遊ぶ。
アメリカ人の中に気になる女の子がいた。
僕は中学一年生だが、彼女は背たけは同じくらいだ。歳は分からない。
金髪に綺麗な顔立ちで澄んだ瞳で、
それでいてたまに鋭い眼差しで僕の方を見る。
僕はその鋭い眼差しで見られると、胸がドキドキしてしまう。
時計も止まっているかのような間で、じっとこっちを見る。なかなか顔をそらさない。
家に帰って彼女を思うと胸が苦しくなる。
夜はマンションのプールに入る。丸いプールだ。天井はドームの様になっていて透明でうっすら星が見える。
月が見える。僕はいつかあの月に行ってやると心の中で誓う。熱く…熱く…
そして世界がworkingしていることを確かに感じる。
プールは大抵、英語と中国語と日本語がごちゃまぜだ。僕たちはそれをおかしいと思わない。
それが当たり前だった。言語が違っていることも忘れて、みんなではしゃぐ。
あの鋭い眼差しのアメリカ人の娘もたまに来る。
父の日本車に乗って台北のSOGOデパートに行く。僕らは大抵そこで日本の食材や、ジャンプなどの日本の漫画を買う。
父が急な仕事で呼び出され、
「お前、タクシーで帰ってくれ」
と千元札を渡された。
僕はすぐに帰らず士林区のマクドナルドに入った。
「イーグ、スーティヤオ、ハン、ルゥカアフェ、プシューワイタイ、ウオ、チュー、ツァイツーヴィエン」
その時だった。偶然という長針と短針の針が一つに重なるようだった。
僕は例のアメリカ人を見つけた。
彼女は子供たちの遊ぶすべり台で遊んでいた。
まるで子供の様に。
僕は困惑した。彼女は同じくらいの歳だと思っていたが一体いくつなんだろう?
マンションに帰ってイギリス人の友人に聞いてみた。
“How old is she?”
“I`m not sure,but,Ah..…Around,7or8.
she might be.
僕はショックを受けた。
同じ年くらいに思っていたが、彼女はまだ小学生の1,2年くらいなのだ。
あの鋭い眼差しは子供特有の眼差しだったのか。僕は失望し、覚めてしまった。
10月のハローウィンに彼女は僕の家に来た。お姫様の様なドレスを着て
“Give me a candy”
と言う。よく見ればまだ子供だ。
―――ああ、僕は一時でもこの娘に恋をしたんだなあ―――
(了)