坂上郎女
歳の離れた、宿奈万呂(すくなまろ)という兄だ。
通称で、まろ。
この麻呂は藤原麻呂との結婚を許さない、つわものだった。
「どうして。兄さんには関係ないじゃん」
だって麻呂は、私を好きでいてくれるって言ってくれたのよ。
私、それだけで幸せだった。
「関係なら大いにある。俺はお前を好きだからだよ・・・・・・」
自分は、大津皇子の愛人だった女といちゃついてたくせに!
「石川郎女のことか。彼女は関係ない」
「なによ。あんなばばあの、どこがいいんだよ。・・・・・・兄さんのばか・・・・・・」
「お前こそ、あんな不埒な男、やめちまえ」
この時代、奈良時代では異母兄弟、つまり母親が違えば兄妹でも結婚できた。
郎女はこの宿奈万呂と結婚を決め、その後も愛人と関係をつづけたというが・・・・・・。
兄は、自由奔放な妹を、どんな気持ちで見ていたのだろう。
古代といえど、好きな相手が浮気していたらきっとつらかっただろうに・・・・・・。
じつはこの宿奈万呂と坂上郎女とは、兄妹でも家柄が違った。
宿奈万呂は大伴家持の家系で、裕福、反対に郎女は貧しかった。
ゆえに兄は、いつも妹の面倒を見に、遠くの土地へ出かけていっては品を届けたそうだ。
歳の離れた、かわいい妹。
だが、そのころからきっと、愛情が芽生えていたのだろう。
身内としてでなく、――ひとりの女として。
だが郎女がとまどったり、困ったりしたのを見て、諦めがちだったのに違いない。
だから・・・・・・兄は、万呂は、望みもしない石川郎女の愛情を受けたのだろう・・・・・・。
郎女はそのことを責めた。
いつまでもいつまでも。
兄の胸をたたき、しまいに泣き崩れた。
「兄さん・・・・・・私も言われて気づいてしまったの・・・・・・兄さんと結婚、したかった。愛していたの・・・・・・」
こうしてふたりの間に子供がふたり、できた。