いるいる辞典 アニオタな人
必要な物は印鑑だったのだが、どれがどれだか分からず立ち尽くした。
「あの、印鑑ケースはレイちゃんです」
「分かるかっ、新谷っ!!」
反射的に叫んでしまった。周りはクスクス笑っている。どうやら周知の事実のようだ。気を取り直して形で探してみるも、それらしき物がない。困り果てていると坊やがいつもの笑顔で戻ってきて、八角形のピンクのケースを摘み上げた。
「これですよ。レイちゃんが分からないなんて、田部さんって遅れてます」
「知りたくもない。大体なんで八角形なんだよっ!!」
「本当に知らないんですね」
何故ため息をつかれなければならないのだ。イタイのはお前さんだ。そこからレイちゃんとやらの説明を勝手にし始めた。よくは分からないのだが、風水を駆使して悪と闘う女の子のアニメだそうだ。それで八角形なわけか。納得はすれど不本意である。
ほとんど聞き流しているというのに、坊やの調子はますます絶好調になっていった。グッズを1つずつ取り出してのご説明。レア物とかどうでもいいから解放していただきたい。
「でもね、レイちゃんは浮気なんです。本命はなんてったってミウちゃんなんですから。有名ですよね」
口を開きたくないので首を横に振る。坊やは驚愕の面持ち。マズイと思ったのだが遅かった。案の定、ヒートアップして語りだした。なんでもミウちゃんは呪いにより、昼はヒョウの姿をしていて、それを解くために闘いに出るだのなんだの。オレは今この瞬間を呪うよ。
帰りまで引きずって煙草を吸っていると、さやが笑いながらやってきた。
「洗礼受けちゃったね」
「なんなんだよ、アイツ」
「アニオタってやつ?」
「勘弁してくれよ。誰も助けてくれないんだもんなぁ」
「ちなみに、車の内装もレイちゃんだかミウちゃんだか。両方だったかな」
「吐きそう……」
「抱き枕もあるとかって。等身大って話だよ」
「もういい。イタ過ぎる……」
作品名:いるいる辞典 アニオタな人 作家名:飛鳥川 葵