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超絶勇者ブレイブマン その8

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土曜日の昼過ぎ、駅前に勇気と可恋の姿があった。配るための元飼い主探しの張り紙は段ボール箱に詰めてある。愛はまだ来ていない。約束の時間から30分は経っているのだが、――と思いつつ、勇気が左腕の腕時計を見ると、のんびり欠伸をしながら愛がやってきた。
「ふわぁ〜、おはよー」
「愛ちゃん、おはよー。眠そうだけど、大丈夫?」と純粋な瞳で可恋は尋ねた。「らいじょうぶ、らいじょうぶ」と愛は答えるが、明らかに眠さでろれつが回っていない。
「おはよう、愛ちゃん。もう時間過ぎてるよ。そっちが決めた時間なんだから、ちゃんと守ろうよ」
「んー、ごめんにゃさい。目覚ましセットしてなくって。ふにゃ、眠い……」
 本来、愛は時間にルーズな性格ではない。しかし、幼馴染の勇気と可恋相手だと、気を許し過ぎていて緊張感がまるでないのだ。仕方ないなあと思いつつも、勇気だって本気で怒っているわけではない。いつも通りだなと笑って、軽く流せるくらいの気持ちだ。
「ちょっと待ってて。そこのコンビニでコーラでも買ってくるから、それで目覚まして」
「え。私、オレンジジュースがいい」
「炭酸入ってる方がいいと思ったんだけど、ファンタオレンジでもいい?」
「じゃあ、それで」という愛の返事を聞いて、勇気はコンビニへと駆けていった。見るからに身軽そうな身のこなしだ。その上、優しくて気遣いもできるのだから、女子に人気があるというのも頷けるというものだ。
「もしかして、愛ちゃん、昨日ネトゲでもやってたの?」
「ネトゲと言えばネトゲだけど、コンシューマー機でできるやつだよ。先月出たばかりだから、ずっとやってる」
「そうなんだ。うーん、私ももっとゲームとかした方がいいのかなあ」
「ん? 別に無理にする必要はないんじゃない?」
「だって、勇気くんと愛ちゃんがゲームやアニメの話してるとき、ついていけないときあるもん」
「んん、だったら、今度可恋ちゃんが読んでる小説貸してよ。そっちだけが合わせようとするのはおかしいから」
「それはそうだけど」と可憐は歯切れが悪かった。愛は可恋が何を考えているのか分からず、話を詳しく訊こうとしたが、そこへちょうど勇気がペットボトルを3本持って戻ってきたので、首を傾げることしかできなかった。
「ほら、飲み物買ってきたよ。可恋ちゃんはコーラでよかった?」
「あれ、私の分も買ってきてくれたんだ。ありがとう、なんでもいいよ」
「ファンター。私のファンター」
「はいはい、どうぞ。それ飲んだら、大声出して頑張ってもらうからね」
 まったりとした時間が流れているが、そもそもの目的を忘れてはいけない。これから駅前で行き交う人たちに張り紙を配らなければならないのだ。
 ちなみに、張り紙の文面は少し変えてあり、『何か情報を知っている人がいれば連絡して欲しい』という内容になっている。これならば、元飼い主以外からも何か知らせがあるかもしれない。
 愛は柔らかそうな唇をペットボトルの口に当て、3分の1ほどの量を飲み干した。清潔感を感じさせるショートヘアの黒髪は風にそよぎ、まるでCMを観ているかのような爽やかな光景であった。
 大人の女性になり始めたばかりの思春期の少女だからこそ出せる清純さ。同じく思春期の少年ならば見惚れても仕方がないのだが、勇気は愛と目が合うと慌てて目を逸らした。
 さて、始まる前から休憩ばかりしていても仕方がない。勇気たち3人は飲み物を飲み終え、誰ともなしに動き出し、張り紙を配り始めた。