Twinkle Lights
プロローグ
【プロローグ】
――人はいつから『夢』を見なくなるのだろうか。
少年はふと、何の気もなしに自転車を止める。空を見上げた。
そこには全天を覆う黒に、眩く輝く星々があった。
彼の曇った心とは関係なく、夜空はとてつもなく澄み切っていた。
その時、刹那輝く光が闇に軌跡を描く。
「流れ星?」
いつもなら気づかなかったろう、その小さな煌めきはすぐに燃え尽きた。
少し、胸が痛む。この痛みの名を少年は知らない。
いつからだろうか、流れ星に願い事を言わなくなったのは。
幼い頃、いつ降ってきても気づけるように空を注視していた。今みたいに、願い事も用意せずに見てしまったら、一昼夜悔やんでいただろう。
少し成長した少年に、あの頃の情熱は思い出せない。なぜ、あそこまで執着して、そして空を見なくなってしまったのか。
「叶わなかったからから、だろうな」
やっとの思いで三回唱えた願いは、未だにその輪郭すら見せてはくれない。
わかっている。願うだけ願って、自分では何もしないのなら神様だって見捨てるってことを。神頼みは結局、自分の意思表示だってことも重々承知している。
それでも、自身でやろうと思ってもできない願いだからこそ、星にそれを託したのだというのに。
一つ夢を諦める度に大人になる。そんなフレーズが頭をよぎる。誰が言ったかは忘れたけれど言い得て妙だと彼は思った。
「そうはいってもさ」
諦めきれないんだから、まだまだ僕は子供だな。そう、少年は口からこぼす。
少年は大きく深呼吸した後に、自嘲気味に笑った。
親や友達に話せば呆れられたり馬鹿にされたりするけれど、少年はその願いを捨てる気はない。 いや、一度捨てかけた願いだからこそ、二度と手放さない覚悟がある。
「確かに会ったんだ、僕は……」
その呟きは、誰かに聞かせるものではない。自分自身への確認だ。
とある拍子に壊れてしまいそうに儚く、それでも強く輝き続ける彼の『夢』。それを追い続けるのだと。
少年はサドルにまたがり家路を急ぐ。先ほどまで曇っていた瞳は、少しだけ晴れていた。
かつて、この世界は幻想と共にあった。
ある者は神の啓示を受け、人々を導き文明を築いた。ある者は美しき妖精に出会い、その想いを詩に綴った。そして、ある者は悪魔に魅せられ混沌にその身を焦がした。
しかし、悠久の時は人の心から幻想を奪い去っていく。そして『彼等』もまた、人の前からその姿を消したのであった。
だが、『彼等』は決して夢物語の住人ではない。
幻想を失ったあなたが側にいる『彼等』に気づかないだけで。
今も、『彼等』は傍にいるのだから。
作品名:Twinkle Lights 作家名:Hiro