無題
演説させて、こいつの右に出るやつなど、おそらくきっとありえない。
なんでもフランス修道会の一員で、騎士家系だそうだ。
へえ、どうりでね。
私もその明晰な頭脳に、ぜひともあやかりたいものだ――。
しかし、この騎士は思ったとおり、ふつうの騎士ではなかった。
アントワーヌと名乗ったこの歳若い僧は、非常に鋭利な眼光で私を見据えたまま、身動きひとつせずにじっと、立ち尽くしている。
それで、何が普通じゃないか、と言えば、その行動にあった。
まるで修道騎士とは思えぬほど、破天荒振りを見せる。
「おやおや、ジェイムズさん。このようなところでお会いするとはね」
白銀の鎧を身に着け、アントワーヌは含んだ笑みを浮かべながら近づいてきた。
「これはこれは、アントワーヌ・ド・モンブラン伯爵。本日はまこと、好天に恵まれ」
「挨拶はいい」
アントワーヌは私の首根っこをつかまえ、ただでさえ鋭い眼光をさらに光らせた。
「いつもいつも、おべっかばかりを言いおって、僕を愚弄する気か」
彼はどうやら、不機嫌な様子だった。
なのでご機嫌なおしをと、手もみしながら私は、
「それは気のせいでございましょうよ・・・・・・手前はけっして、あなた様を愚弄など」
「だまれ」
彼は私のスカーフをぎりぎりと締め付けてきたので、呼吸が満足にできなかった。
「お放しを、ううっ、苦しい」
「僕が知らないとでも思っているのか。お前はサン・ジュストやロベスピエールとつるんで、一揆を起こそうとしているらしいじゃないか」
「ご冗談を。私は伯爵様を裏切ったりしません」
「人間はあくどいからな・・・・・・腹のそこでは何を考えているかわからん」
この伯爵、どうあっても人間を好きになれないらしかったから、私は機嫌をとってばかりいたのだが、それもそろそろ疲れてきた。
ようやく伯爵の力強い腕から開放され、私はのどに手を当てる、
「おお、苦しい。まったく・・・・・・」
「それとな、われわれ王党派は共和制になど屈せぬ。そのことはおぼえておけ」
いわゆる共和制というのは、国民のための国民による政治国家をめざすといった、いわば王や皇帝のような貴族をつぶそうとする政治形態のこと。
これに反するのが王党派、そのじつ、今の時代、啓蒙思想というものが流行しているが、それもいつまで持つか・・・・・・。
王党派は国王を支持し、絶対主権を主張した。
共和制はその逆を取る、ということ。
そして――事件が起こると革命という形になり、民を苦しめた王を抹殺する・・・・・・。