シロクロモノクローム
第四十三話:<私>と私
呆然とするぼくらに向かって、カジ君もといコンポーザーは話し始めた。
「この世界にはプログラムと私しか存在しない。いや、存在してはいけないのですよ。〈私〉と私が同時に世界に存在すれば、世界の均衡は崩れ、秩序が成り立たなくなる。だから、あなたはここにいてはいけないんですよ。ナナ」
コンポーザーは、ぼくをまるで見透かすような瞳で見つめ、話を続ける。
「理解していないという顔ですね。無理も無いでしょう。あなたは無自覚にここに来て閉まった。しかし、ここに来てしまった以上、元の世界に戻っていただくか、それともこの世界で朽ち果ててもらうか、二つに一つです。それが、<私>と私の存在し続ける事の出来る唯一の方法です」
「お、おい! ちょっと待てよ。話が飲み込めないぞ」
クオリアさんは困惑した表情でコンポーザーに問いかける。コンポーザーはそうですね。と呟き、
「こうすれば、理解出来るでしょうか」
激しい竜巻に包まれたかと思うと、ワイバーンの姿から、ひとりの少女の姿に形を変えた。その姿は、その少女の顔は、
「ナナと、同じ、顔」
たじろぐクオリアさんとぼくに、ぼくと全く同じ顔をしたコンポーザーは、にこりと笑いかけた。
作品名:シロクロモノクローム 作家名:伊織千景