シロクロモノクローム
第十二話:タギング
「あれ? 結局元に戻っちゃうんですね」
ぼくは何だか拍子抜けしてしまった。あれだけぼこぼこと激しく動いたのだから、何かもっと凄い変化をするのかと思っていたからだ。
「それがそうでもないんだよ。見た目は変わらないが、これでお前は"タギング"できるようなったんだ」
また出た、謎の用語"タギング"。一体"タギング"とは何なんだろう。
自分で考えても、クオリアさんが自分で勝手に付けたらしいから、自分で考えてもわかるわけがない。ぼくは素直にクオリアさんに尋ねる。クオリアさんは頷き、説明を始めた。
「"タギング"って言うのはパソコン用語で"タグ"を付ける事を言う。平たく言えば、物に名札を付ける事だ。さっき俺が椅子を出したろ? あの時俺は<椅子>というタグを使って、空間の一部をタギングしたんだ」
名札=タグを付けるからタギング。なるほど説明を聞けばとてもわかりやすい話だ。僕はクオリアさんが"タギング"して出した椅子を見る。そこでひとつの疑問がわきあがってきた。
「クオリアさんは結構前からここにいるんですよね?」
クオリアさんはうなずく。
「それじゃあ、今までタギングして出したものがないのは何でですか?」
ほお、とクオリアさんは声を上げ、感心したように僕を見た。
「なかなかいい質問だ。お前なかなか賢いな。言葉で説明してもいいが、もうすぐその疑問の答えが出るだろう」
そういうと、クオリアさんは自分の出した椅子の方を見た。
作品名:シロクロモノクローム 作家名:伊織千景