ひまわり
「もうちょっと待ってて」
ボクは、キミを見ずに声をかけた。キミの姿がボクの目に映るとボクはきっとこの手を止めてしまうかもしれない。
キミの気配が、リビングから出て行った。短い廊下に出て洗面所に向かったようだ。
手でも洗いに行ったのだろう。
「きゃっ!」
それは、キミには珍しいほどの甲高く、通る悲鳴だった。
「ど! どおした?」
自分で言うのも可笑しいが、キミが言うおっとり系らしいボクは、慌てて椅子から立ち上がり、椅子が傾き、ボクは何とか体勢を保ったものの、ローラのついた椅子は壁まですっ飛んで行った。その勢いに負けず劣らず、ボクもキミのところにすっ飛んで行った。
洗面所には、髪から雫を垂らしたキミが立っていた。
そういえば、洗面台には先客が……。
近くで畑をされているご夫婦から貰った花が洗面台で水に浸かっていた。
ボクは、(少し笑ってしまった)首に掛けていたタオルでキミの髪を拭いた。
「どうしたの?」
わぁ、その目…タオルの間から覗いたキミの瞳は、猫の目のように爛々とボクを見上げた。
「ごめん。此処使えなかったんだね……浴室で手を洗ったんだね……それで…」
「雨が、降った…」
その口調は、怒ってはいなかったけれど、壊れそうなほど情けなかった。
「ごめん。さっきボクがシャワー使ったままだった。服まで濡れちゃったね」
ボクは、新しいタオルをキミに渡すと、部屋に着替えを取りにいった。
洗面所に戻ってソレを脱衣カゴに置いた。
「はい、いい天気だから、きっとすぐに乾くよ。ね。ははは、濡れにゃんこ。あ、ごめん」
タオルで、髪を拭いているキミを残し、ボクは、先にリビングに戻った。
壁にすっ飛んだ椅子を戻し、キミがどんな顔をして来るのかどきどきしながら待った。
だけど、戻って来たキミの声は柔らかで、心配は思い過ごしで終わった。
「あのお花、どうしたの?お散歩して取ってきちゃったのかにゃん」
「散歩はあたっているけど、勝手に取っては来ないよ。貰った」
「可愛いひまわり」
「こなつ」
「ん? こいつぅ?」
まったく、ボクより天然なキミにはいつも笑わされる。