小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ハーモニカ

INDEX|3ページ/16ページ|

次のページ前のページ
 

 二から一を引くと残りは当然、「一」になる。
「信乃? 追試の課題が大変なら、俺の方は他に頼むぞ?」
「いや、すまない、何でもないよ。大丈夫、課題の方はそれほどでもないから」
「それなら良いけど」
 尚之の伴奏を、他の誰かに譲りたくなかった。伴奏合わせは、二人だけで共有する唯一の時間だからだ。聴衆も容子もいない。誰にも邪魔をされず、ただヴァイオリンのために――尚之のためだけにピアノを弾く時間。それが実は掛け替えのないものだと、信乃夫はつい今しがた突然に自覚したのだった。

『それはおまえ、尚之を好いているんだろうよ』

 長兄の声が再び耳の中で響いた。「あの娘」は「尚之」に読み替えされている。
 「好いているんだろうよ」が友情なのか恋情なのか、信乃夫はまだ確信が持てずにいた。

作品名:ハーモニカ 作家名:紙森けい