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アインシュタイン・ハイツ 302号室 藤井祐一

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「……意外だったよ。藤井くんが『エプロン男子』だったなんて」
 帰途に着く途中、ハブステアリング立って両手を祐一の肩に預けた平家が呟いた。
 大きなハブステアリングは思いのほかフィットしたのか、平家はすぐにバランスを取って祐一の肩に体を預けることが出来た。
「『エプロン男子』?」
 祐一はその言葉を、自転車を漕ぎながら訊き返す。
「お弁当や家事を得意にしている男の子のことだよ。雑誌とか、メディアで取り上げられてるんだよ、知らないかな?」
 平家がそれほど大きな声を出さなくとも、会話は通じていた。
 具体的には、頭の位置が近いからだ。
 但し、会話をしようとするとちょっとばかり別の問題が生じる。
「いや、初めて聞いたかも…。それに、俺のはそんなんじゃないでしょ。腹が減ってるところに餌が出てきたわけだから」
 こちらの声を聞き取ろうとする平家の顔が、些か近い。
 やむを得ないとはいえ、肩にかかる手の重みといい、祐一には少々気恥ずかしかった。
「『空腹は最高の調味料』って話かな?」
「まぁ、そんな所でしょ」
「それに、自転車の荷台だって、話が出てすぐに、こんなに色々準備してくれるとは思わなかったよ」
「本当なら、荷台のパイプの上に敷けるようなクッションも用意したいところだったけど、携帯買ったりして時間があまりなくてな。座席が用意できなくてすまん。もし必要なら、明日には何とかしてみる」
「……藤井くんはナチュラルにそういう事言うよね。由美ちゃんセンセじゃないけど、将来が怖いわ」
「怖い?」
「……女の子は勘違いしがちだってことだよ。でも、『誰にでも優しい』っていうのは、何だかちょっと残酷だよね」
 平家が呟いた。
 その呟きには、どこか自嘲のような色が『視える』。
 だが、祐一はその自嘲に気付かない振りをした。
「いや、俺の場合、どうでも良い相手には割とぞんざいだと思う」
「…………『どうでも良い相手』なんていない癖に」
 平家が、頭の位置を離して、祐一には聞こえないように呟いた。
 だが、その呟きは、平家が聞こえないように呟いたつもりでも、しっかり祐一の耳には届いてしまっていた。
 そのように鍛えられてしまった、この頭が悪いのだが。
 それは、どちらかと言えば先程の自嘲と同じく、平家自身に向けて放たれた言葉だったのかも知れない。
 祐一は、平家の言葉には答えず、自転車を漕ぎ続けた。