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表と裏

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お題:小説家の略奪 必須要素:美容整形 制限時間:30分

   
      表と裏



カタカタカタカタ…

私は、今日もパソコンに向かってキーを打ち続ける。
今日で何日目だろう。
もう、随分と寝ていない気がする。
食事も、ロクにとっていない。
でも、もう時間がないのだ。
それ以上に、私は没頭していた。

カタカタカタカタ…

目の前で、自分が作り出す物語が形になっていく。
まるで息をしているかのように、生き物のように、
登場人物たちが生き生きと動き回っていく。

そして…

「できた…!」

そう。完成した。
今までの中での一番の手ごたえ。
これは傑作になる。
私は確信した。

カーテンの隙間からは朝日が差し込んできている。
小鳥のさえずりも聞こえてきた。
「朝か…」
しゃっとカーテンを引くと、そこには仕事場から見慣れた風景。
コンクリートジャングル。
締切間近になると、私はいつもここのオフィスに籠る。
いや、正確に言うと 「籠らされる」

ふ、っと横を見ると、鏡に映った自分の顔と目があった。
ボサボサの髪。
お世辞にも綺麗とは言えない顔。
大きな、火傷の傷が残った醜い、顔。
「ふぅ…」

そうね。
当然よね。
これは、仕方のないこと。
私が生きるために、仕方のないこと。

そう、また自分に言い聞かせて、私は完成した原稿をメモリに保存した。


************************************



「お疲れ様夏月!今回の作品は特に反響がすごいわ!!もう、私もインタビューや取材がひっきりなしで忙しくて忙しくて…」

目の前で私の相棒---いや、本当の「私」と言うべきか。
千秋はどさっとソファに沈み込んだ。
そして、長くて綺麗な足を組み替える。
「新進気鋭の鬼才女流作家、【五月雨夏月】センセーショナルなデビューから、何作も大ヒットを飛ばしてその勢いは止まらない。素晴らしいわ」
千秋はカチっと火をつけて、優雅に煙草を吸う。

「実はゴーストライターだった、って知ったら、世間はなんと騒ぐでしょうね?」

ふふっ、といたずらっ子のような目をして、千秋は私に微笑みかける。

「無理よねぇ。あなたは公表することはできないわ。五月雨夏月の正体は」
つっとそばに寄ってきて、私の顔を手の甲でなぜる。
「…こんなぶっさいくな女なんですものね…!!」
「…っ!!」
私は、唇をかみしめて拳をぐっと握ることしかできない。
そう。
私の小説家としての才能がいかせるのは、この方法しかないのだ。
「貴女には充分なマージンを渡しているはずよ。本来なら、日の目を見なかったはずの作品が、私のお蔭で売れているのだから…」
ほら と、机の上には札束が5つ。
「これで足りるでしょ?もし、なにか欲しければ言ってちょうだい。相談にはのるわ。」
ふふっと微笑みながら、千秋は私に背を向けてバッグを手にもつ。

そこで、私は、瞬間的にとてつもない衝動に襲われた。

コンナセイカツデ
ホントウニイイノ?

千秋はこちらを見ずに言葉を続ける。
「じゃあ、次の作品は、そうね、半年後完成を目標にしてもらおうかしら。また連絡するわ」

その言葉を聞き終わるか否か。

私は、千秋の後頭部に、クリスタルの灰皿を叩きおろしていた。



*****************************************



半年後、私は新しい作品の完成記者会見に、晴れやかな笑顔で出ていた。
「千秋」の顔をして。
いや、「五月雨夏月」は、私なのだ。
だから、これは私の会見。
何も問題はない。

そう、これが本来の私の立場。
略奪されていたものを略奪し返しただけ。
何にも問題は、ない。
これから、私はこの世界で、晴れやかに生きていく-------



この新しい作品、「ゴーストライターの略奪」を代表作として-----




2013.08.20
作品名:表と裏 作家名:碧風 -aoka-