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死人

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 アパートの廊下を歩いている時、背後で音がした。
 鍵を掛ける音。
 多分、末西君の部屋から。
 やっぱり、居る。
 ちょっと寒い気がした。
 姉にも聞こえた筈だったが、何も聞いていないかのようにそのまま階段を降り始めた。
 戻って確かめてみようかと思ったけど、なんだか怖かった。
 僕の目の前を歩いている姉だって、得体が知れないという意味ではなお怖いのだけど、昼間だから安心なのか、慣れてしまったのか、今は平気だった。
 姉は、近くのコンビニに寄って、僕はそのまま帰ることにした。
 夜になっても、勿論何も起こらなかった。
 夜中にベッドで寝ている僕を、姉が物言わず見下ろしていたということもなかった。
 だけど、末西君のアパートから持って帰ってきた写真には何も写っていなくて、姉の事故なんてもの自体、幻覚の類だったという事も、残念ながらなかった。
作品名:死人 作家名:咲会伶俐