欄干の少女
季節は春、心地よい川風が川下に向かって吹いている。
川の左岸近くの橋の上で、私はそよ風を頬に受けて上流を眺めていた。
ふと足元を見ると、小石があった。
なにげなく拾い、白い鉄の欄干を1回軽く叩いてみた。
かーん
かーん かーん と今度は2回叩いてみる。
コーン コーン と2度、やや遅れて、遠くから音が帰って来た。
(そんなはずはない!)
はるか向こうの、右岸近くの欄干に
セーラー服姿が小さく見える。
私と同じように欄干に身体を預けている。
今度は少し、強く叩いてみた。
かーん かーん かーん
コーン コーン コーン
確かにそれは、返事に聞こえた。
(もう1度やってみよう。こっちを見るかな)
『おーい、帰るぞー』
突然、兄の呼ぶ声がした。
はっと、我にかえった私。
自宅まで帰る途中、兄とは一言も口をきかなかった。