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飛空都市の八月
飛空都市の八月
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あなたと会える、八月に。

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第4章 6歳



◆1

 三度目だ。



 足許を通り過ぎていく少女を見て、さすがに私もおかしいと思った。どうして誰もあの少女のことに気づかないのだろうと思ってみたが、それは私のように行き先もなく歩いている訳ではないからだとすぐ思い至った。誰も彼も、行く場所があるのだ。海の中か、砂浜か、美味いものを食べさせる店か、海での旅を彷彿とさせるようなものが買える店だとか。あるいは、この光景すら目に入らぬほど、連れの者との語り合いを楽しんでいるか。
 先程見かけたときよりも格段に歩く速度が遅くなっているので、難なく私は少女に追いついた。少し足を引きずっているような気がする。よく見れば履いているサンダルの革が擦れているのか、血が滲んでいてそれが痛むらしい。なるべく驚かせないようにしながら、私がそっと背後に近寄り声をかけようとしたそのとき−−
 「何ですか」
 青紫の巻毛が首筋でふるっと揺れたかと思うと、少女が振り返り、眩しそうに目を細めた。どうやら私は太陽を背にして立ってしまっていたらしい。年の頃は五歳か、六歳かといったところだろうか。私がこの年頃の子どもと接する機会はまずないのでおおよそのことしか言えないが、以前ある惑星の視察に向かった折、出迎えの花束を渡してくれた七歳の子どもと比べると、少し小柄な気がするから。
 「道に迷ったのか? 親はどうした?」
 そう言ったとたん、どうした訳か少女の眉が吊り上がった。
 「わたくしは迷子などではないわ!」
 少し大きめの声だったせいで、道行く人々の数人が振り返ってこちらを見た。
 「通り道で話していては邪魔になる。こちらへ」
 そう言って私は行こうとしたが、少女は動かない。
 「どうした?」
 「どうして知らない人に、このわたくしがついていかなければならないの?」
 少女は精一杯頭を上に向け、私を見据えるとそう言い放った。あの花束をくれた子どもよりもずっとしっかりとした口の利き様に、私は少し驚いた。
 それはともかく……少女の言うことはもっともだ。
 「すまない」私はそう言うと、ようやく気づいたように膝を曲げて少女の顔を真正面から見た。瞳が髪の色と同じく紫がかった青色で、額に汗がにじんで前髪が張り付いている。頬が少し赤い。ずっと日の照る道を歩いていたからに違いない。
 「私はジュリアスだ。そうだな……少し日陰へ入らぬか?」
 道の脇にはそこかしこにベンチがあり、ちょっとした樹々やパラソルがある。私は背後の大きな樹の下にあるベンチを指さした。少女は首を少しだけ傾げてこちらをじっと見つめていたが、やがてこっくり頷くと、すっと手を差し出した−−至極それが当たり前であるかのように。
 少女に言ってみても詮無いことだが、私が跪<ひざまづ>いて手を取る女性はこの世界において一人しかいない。唯一無二の存在の方−−女王陛下のみ。
 そうか。
 私は苦笑して出された手を取った。この少女が二人目というわけだ。もっともその手はあまりにも小さ過ぎて、私の中指と薬指を掴むのが精一杯のようだったけれど。
 「……わたくしは、ロザリア・デ・カタルヘナ。今、お散歩中なの」そしてほんの少しきつい眼差しになって言う。「だから迷子じゃないわ」
 あくまでもそう言い張るつもりらしい。けれど二本の指を握る掌からは、じとりと汗が滲んでむしろ冷たくなっており、疲れ切った心細さが伝わってくる。
 いきなり一人きりになってしまったことに気付いた、寂しさの。