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でんでろ3
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novelistID. 23343
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名医ブリッコ・ジャップ

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「先生。私の病気は、一体、何なんですか?」
「うむ、君の病気は……」
と、ここまで、言って、ブリッコ・ジャップ先生は、深くため息をついた。
「はっきり言ってください。覚悟ならできています」
私のただでさえ痛む胃が、ギュッと音を立てるように痛みを増す。
「君の病名は、甲状腺刺激ホルモン受容体刺激型自己抗体性甲状腺機能亢進症だ」
「えぇっとぉ? 病名が長すぎてさっぱり分からないんですが、それは、簡単に言うと、どういう病気なんでしょうか?」
「水虫です」
「いや、ちょっと待ってください」
「なんだね?」
「さっきの長いやつを、どう縮めても、水虫にはならないと思うんですけど?」
「そんなことはない」
「じゃあ、さっきの長いのもう一度言って下さい」
「いいだろう。君の病名は、下垂体腫瘍性タランドゥスオオツヤクワガタ糖質ホルモン過剰症だ」
「……あの、他人を馬鹿にするのもいい加減にしてくださいよ。なんですか? タランドゥスオオツヤクワガタって? なんで病名に、クワガタの名前が入ってるんですか?」
「あぁ、すまんすまん。ちょっとしたミスだ。君の病名は、糖質ホルモン過剰ドラゴニック・カイザー・ヴァーミリオンTHE BLOOD症候群だ」
「……ぁ、あんたなぁ、どこまで、他人を馬鹿にすれば気が済むんだ。虫の次は、遊戯王カードか?」
「失敬な? 『遊戯王カード』なんか入れるか! 『カードファイト! ヴァンガード』だ!」
「そんなもん、一緒だぁぁぁ」
「一緒じゃなぃぃぃ」
「大体なぁ、俺は胃が痛いんだぞ。それを……」
「水虫です」
「寒くもないのに汗が……」
「水虫です」
「心臓が、ギュッと絞……」
「水虫です」
「ふなっしーは」
「水虫です」
「3時のおやつは」
「水虫です」
……………………
「か・ん・じ・ゃ・の・は・な・し・を・き・き・な・っ・さ・ー・い・っ」
私は、ブリッコ・ジャップにバックドロップを決めていた。


「だいたい、あんた本当に名医なのか?」
「なぁんだとぉー? よろしい。今日は特別に、私の名医ぶりを見せてやろう。君、この白衣を着て、そこら辺に立っていたまえ。……そうそう。適当に、しかめつらしい顔をしていれば助手に見えるから」
「名医かどうかはともかく、あんたが、いい加減なのは確定だな」


ほどなくして、救急車で、呼吸も、脈拍も停止しした男が運ばれてきた。
「あなたっ、あなたっっ! あなたあなたあなた、あ~な~た~っ!」
男の妻が半狂乱に叫ぶ。
「せ、先生っ。お願いします。た、助けてください。お願いしますー」
ブリッコ・ジャップにすがりつくようにして懇願する。
「なるほど、確かに、並みの医者なら、あきらめるしかない状態です。しかし、名医でも、生き返らせることができても、その後のことは、保証できません。重い後遺症と長い年月、付き合って行かねばならないかもしれません」
「そ、そんな。そんなこと……」
「あなたは、この人に、生きて欲しいのではないのですか? 介護が必要ではないか? となったとたんに、迷うのですか?」
私は、思わず口を挟んでしまった。
「違います! 介護が嫌なのではありません。ただ、この人が、そこまでして、生きたいと思っているか、心配になったのです」
「……お前と一緒に生きられるなら、どんな形でも、生きていたいと願うさ」
背後から突然声がした。運び込まれた救急患者が、息を吹き返していた。診察室は歓声に沸いた。
「先生、今のは、先生が?」
私は、小声で聞いた。
「うむ、『心配蘇生法』だ」


 男は、念のため、設備の整った大病院に転院して行った。
 そして、落ち着いたのもつかの間。

ブォン、、、ブォンブォンブォンブォン……
パラリラ、パラリラ、パラリラ、パラリラ、……
パーーーラーーリーーーパーーリーラーリーラーリーー

けたたましいクラクションとバイクのエンジン音が、病院の駐車場に満ちている。窓を開けると、車検を通る気など微塵も感じさせないバイクと映画マッドマックス2から抜け出たような方々が、予想道り、駐車場に溢れている。そして、彼らは、ドカドカと、窓から入ってきた。
ブリッコ・ジャップは、私をかばうようにして、彼らの前に立ちはだかり、言った。
「ブリッコ・ジャップ先生には指一本触れさせないぞっ!」
賊は、
「下っ端には用はねぇ!」
と、ブリッコ・ジャップを押しのけた。
「さぁ、世界的名医のブリッコ・ジャップ先生よぅ」
「いゃ、本物のブリッコ・ジャップは、そこに転がってるんだけど……」
「なにぃ? 身を挺してかばってくれた助手を身代りにする気かぁ?」
「ぃぇ? 私が、ブリッコ・ジャップです」
「そうだろう?」
「金は全てスイス銀行に預けているので、ここにはない」
「いんやぁ。俺たちの狙いは、とびっきりぶっ飛んだハイな気分になれる薬だぜぇ。ひゃーはっはっはっはぁー」
「ふん。そんなものは渡せん。それは、君たちのためを思って……」
「はいはいーっ、それじゃあ、皆さん、この薬を全員に回してくださーぃ」
いつの間にか準備万端整えたブリッコ・ジャップが、賊に薬と水を配っていた。
「それでは、全員に回りましたか―? では、せーの、で、ゴックン」
ブリッコ・ジャップの掛け声に従って、賊は素直に薬を飲み込んだ。賊は、少しの間、静かにしていたのだが、
「あ、あれ? 僕たち、なんで、こんな髪型なんだ?」
「服装だって!」
「これじゃあ、面接に行けないよ」
「俺の学歴じゃあ、面接なんて……」
「日雇いからでもいい。働き始めよう」
「そして、余裕が出てきたら、学び始めよう」
「学ぶって、どこで?」
「定時制高校さ」
「よーし、やるぞ!」
「やってやるぞ!」
「おーーーーーっ!」

彼らは意気揚々とバイクで走り去っていった。
「ブリッコ・ジャップ、彼らに何を飲ませたんだ?」
「『更生物質』だ」


 あるいは彼は本当に名医なのかもしれない。しかし、彼の能力は、ダジャレを現実に変えてしまうスペルマスターなのかもしれない。それは、医者とも、ヒーラーとも違うような気がする。
 そのとき、ふと気が付く。胃が痛くない。脂汗もかいていない。心臓を締め付けられるような感じもしない。そして、……すごく、足が、かゆい。