未来の…
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未来の…
歌舞伎町---
ここは、昼間と夜とでは全く表情が違う街。
私は、この街では「夜の女王」と呼ばれていた。
誰が呼び始めたのかはわからない。
だが、いつしかそれは、街全体に知れ渡ることとなり、
私は「女王」の座を思うが儘に謳歌していた。
そんな折、私は一人の男と出会う。
「女王」は、全ての男の上に君臨する、気高き存在。
夜の街を蝶のように輝き、美しく舞う存在。
男を服従させることはあっても、一人の男に縛られることなど----
そんな私の気高き心を、その男は一瞬で奪い去っていった。
私は、その男に会うたびに入れ込んでいった。
それは、三島由紀夫の作品に薫る「禁忌を犯すエロティシズム」
私はその文学的な感覚に酔いしれるように、毎日その男に抱かれる。
他の男に抱かれていても、心は常にその男の所にあった。
ある日、私は体調の異変を感じる。
それは、突然のものだった。
(もしや…!!)
私は慌てて薬局へと走る。
買ったものは、妊娠検査薬。
仕事柄、妊娠などしないようにピルを常用していたが、
私は心のどこかで、その男の子供が欲しいと思っていたのだろう。
ピルを、飲むことを放棄していたのだ。
帰って慌ててトイレに駆け込む。
下着を下す時間もおしい。
そして---
検査薬の表示の真ん中には、くっきりと赤い線が出ていた。
妊娠した…!!
私の胸は歓喜に震える。
この子の親は、あの男しかいない。
それは、断言できる。
はやく、はやく、あの男に伝えなければ。
私はあの男のためならば、女王の座など要らない。
私でも、幸せな家庭を築ける。
あの男と、幸せな家庭を---!!
男は、私の部屋を出て行った。
私が、仕事に行っている間に。
私の検査薬の結果を見たのだろう。
私が仕事に出る前に、男が帰ってこなかったので
嬉しかった私は、検査薬をテーブルの上に置いたままにしておいたのだ。
捨てられた。
私は今まで沢山の男たちを捨ててきた。
だが、捨てられたことなどなかった。
これが、その、報いか…
涙が、とまらない。
ひたすら、とまらない。
だが、私は決めていた。
私が真剣に愛した、この男の子を産もうと…
あれから、10年が過ぎた。
私の娘は立派にすくすくと育っていて、10歳となった。
私が引退した後に作った小さな店で、いつもスタッフに可愛がられて育った。
父親は居なくても、沢山の愛情に育まれている。
しかし、これも遺伝であろうか。
小さい頃から「可愛い!」と言われ続けてきて
親の目でなくても、はっとする外見を持っている子だとは思っていた。
それが、歳を重ねるごとに、際立ってきている。
「ねぇ、ママ?」
「なぁに?どうしたの?ママ、これからお仕事なの。」
「今日もママのお店に行っていい?」
「いいわよ、いらっしゃい。また、ホールの齋藤さんにお相手してもらいなさいな。」
「そうね。私、あの人大好き。だって、とっても上手だから」
「あら、なに?何が上手なの?ゲームかしら」
「…ふふっ☆ ママには、な・い・し・ょ♪」
ホール長の齋藤さんは、店を建ててからの古参で、経営にも関わってくれている信頼できる人物だ。
娘のこともよく見てくれている。
何か、楽しい遊びでもしていてくれてるのだろう、と、私は思っていた。
仕事に入ってから少ししたころだろうか。
少し疲れたので、スタッフ用の控室に入ろうと思った時った。
中に入ろうとして、齋藤さんと娘の声が聞こえる。
あぁ、やっぱり一緒に遊んでくれてるんだ---
「んっ…齋藤さんは、やっぱりキスがお上手ね」
「いやいや、貴女も流石あの方の娘さんだ。なかなか…こちらの方もお上手で…」
ドクン と 心臓が鳴った。
私は、恐る恐る控室を覗き込む。
そこには---
絡み会う私の娘の姿と、齋藤さんの姿があった…
チラ、と娘が私の方を見る。
そして、私を確認すると、
とても妖艶な笑みを送って見せた。
私は、確信した。
「この子は、未来の大娼婦になる」
と----
2013.08.06