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いざない

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お題:儚い彼 必須要素:変なにおい 制限時間:30分

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              いざない



ゆら…ゆら…ゆら…

私は、湖に浮かんでいた。
真っ暗な闇の中、ひどく大きく輝く丸い月。
しー…ん、と、何の音も聞こえない。

ゆら…ゆら…ゆら…

ただ、ただ、湖に浮かんで、やわらかな波に身体を任せている。

あれ…私…なんでここにいるんだっけ…

ゆら…ゆら…ゆら…

ゆったりと揺られる身体が心地よい。

月…ひどく大きいなぁ。
星が、見えないや…

ゆら…ゆら…ゆら…

気持ち良くなって、目を閉じる。

「…や…さや…」

どこかで、私を呼ぶ声が聞こえる。
五月蠅いなぁ、気持ちいいから、このままでいさせて…

「さや…沙耶…沙耶!」

聞き覚えのある、優しく、でも凛とした声。
「智樹!?」
はっ、と私は身体を起こした。


ジリリリリリリリリリリリリリ
枕元で、毎日鳴る目覚まし時計。
私は、茫然とベットから身体を起こしていた。
「…夢…?」
いつもの、毎日訪れる朝。
なんら、変わりのない。
「…夢かぁ…」
枕元で鳴り続ける目覚まし時計をガンッと乱暴に止める。

…ん…??
なんだか、変なにおいが鼻につく。
なんだろうこれ…??
不思議に思っていると、台所から大きな声が飛んでくる。
「沙耶!!はやくしないと、学校遅れるわよ!!」
「はーい、起きてるよ!!いまいくから!!」

に、しても、なんだか変なにおい。
どこからするんだろう。
なんとも形容し難いが、嫌なにおいでもない。
どこかで、嗅いだ事があるような…

「沙耶!!遅れるわよ!!」
「はいはい、今行くから!!」

疑問に思うも、私は慌てて制服の袖を通して、学校へ行く準備を始めた。


いつもの通学路。
もう通い始めて3年目。
いよいよ、進路が目の前に迫ってきた。
さわさわと心地よい五月の風か髪をなぜる。
(受験、かぁ…)
私は進学を決めていたが、目指す大学は難関だ。
今のままではきっと合格できないだろう。
(でも…頑張らないと…)
智樹、とふっと小さく声に出していた。
それに自分でびっくりする。
(あ…今日の、夢)
そう。ぼんやりとしか覚えてないが、確かに智樹が出てきた。

私の、恋人だった、人。
今は、もう、居ない人。

一緒に、同じ大学を目指そうね、と誓い合った日。
(あれから…一年経つんだね。)

智樹と付き合いだしたのは、2年の最初。
お互い、1年の時から気になる存在で、どちらから告白するともなく、自然に付き合い始めていた。
そして。
丁度こんな爽やかな五月晴れの日。
いつもの公園の湖の前で、同じ大学に行く夢を語り合ったのだ。

だが、智樹はもう、居ない。
去年の秋、交通事故で亡くなってしまった。
突然の、死。
飛びだした子供を助けるために、トラックに轢かれてしまった。
即死だった。
(優しい智樹らしいな)
私は、とても悲しみながらも、心のどこかでそう思っていた。

そのショックも薄らいできたころ。
この季節だからだろうか。
突然、夢に現れた智樹。
(智樹、なにか伝えたいことがあるのかな…)
そんなことを色々考えながら、学校へと到着した。

「おっはよー!沙耶!!」
「あ、おはよう」
「どうしたのー?朝からなんか暗いよ!」
「え、そう?そんなことないよ!」

友達を心配させちゃいけない。
私は友達としゃべりながら教室へと入った。


夜。
私は、やっぱり今日の夢が気になっていた。
(あの湖に、行ってみようかな…)
だが、日は落ちてすっかり暗くなっている。

「…!!」
また、あの変なにおいだ。
うっすら、だが、湖の方向からしている気がする。
(行ってみよう!!)
私はこっそり家を抜け出した。

公園の湖に近づくにつれて、そのにおいは強くなってくる。
湖には、大きくて明るく、丸い月がゆらゆらと揺れていた。
「あ…」
そこで、私は夢をはっきりと思い出す。
「…智樹!!智樹なんでしょう!?出てきてよ!!」
私は、思わず大きな声を湖に投げかける。

ゆら…と、何かが湖でうごめいた気がした。
「智樹…??」
「さ…や…」
そう、声が聞こえた気がした。
一層強くなるにおい。
それは私を包み込むように…

「智樹…だよね…」

おもい、だした。

このにおいは、智樹と一緒に、この公園で見つけた、小さな小さな花。
どこの図鑑にものってなかった、秘密の花。
私と、智樹しか知らない…
どうして、忘れていたんだろう。

「さや…げんきで…」

そう、声が聞こえた気がして
においと共に気配がなくなった。

足元に残されたのは、小さな花。


2013.08.05
作品名:いざない 作家名:碧風 -aoka-