年貢の納め時
-------------------------------------------------------------------
年貢の納め時
今年もまた、一年の始まりが来た。
テレビからはバカ騒ぎ。
親戚が集まって、酒を飲んで、おせちを食って、一年の始まりを迎える。
だが…
俺は、こうした浮世めいた雰囲気とかけ離れた場所に居た。
俺は、大変なことをしてしまった。
とても、重罪。
それを背負ったまま、今年の正月を迎えてしまった。
ほぅ、と路地裏でため息をもらす。
息が白い。
寒い。
手が、かじかんでいる。
俺は、いつまでこの逃走劇を続けるのだろうか…
「いたぞ!!」
「こっちだ!!」
「捕まえろ!!」
ドタドタドタ、と複数人の足音がこっちにやってくる。
まずい。
もう、嗅ぎ付けられたか…
俺はとっさに、路地裏の地形を見る。
ボロボロの崩れかけた螺旋階段がある。
なんとかして、あれを昇って、屋根伝いに逃げられないだろうか…
考えてる暇もない。
俺はとっさに、螺旋階段の手すりを強く掴んで昇ろうとした…
と…
「うわっ!!」
腐食していたその手すりはぼろぼろっと崩れ去る。
俺は、無様にも尻から地面に叩きつけられてしまった。
「いって…」
なかなか、痛みで立ち上がれない。
「こっちだ!!」
「押さえろ!!捕まえろ!!」
屈強な男たちがやってきて、俺の上にのしかかる。
ああ…ここまでなのだ…
やはり、罪を犯した罪人は、裁かれるのだ…
それが、世の理…
俺は、観念した。
自分が犯した罪を、償わなければならない…
「年貢の納め時とはよく言ったものだ。逃げやがって…!」
「てめぇ!!去年のツケ払ってもらうぞ!!」
「タダで飲み食いできると思ったのか!!」
「ウチのツケは15万だ!!!!」
「こっちは20万だ!!豪遊していったからな!!」
「請求書の宛先は架空なんだから、全く困ったもんだぜ」
「ウチは30万だぞ!!しかもコイツのせいで他にもツケがある人間が…!!」
「まず、ウチから払ってもらう!!」
「なんだと!こっちも苦しいんだよ!!」
「いやいや、ウチが一番先にツケにしたんで…」
「なんだとおお!!」
俺の背中の上に乗っている男たちは、喧々囂々と罵り合っている。
あぁ…俺は…なんということをしたのだろう…
高い高いツケを背負った罪人。
罪もない店主達を、険悪にさせてしまった罪人。
俺は、本当に、「高い罪人」になってしまった…
地面に顔を押しつけられながら、俺は表通りの賑やかなお祭り騒ぎを、どこか遠い国の出来事ように見つめていた…
2013.08.05