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夢と少女と旅日記 第4話-3

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「ま、まあ、今日のところはこれにて下がらせていただきます」
「ですが、今後の身の振り方には十分ご注意なされた方がいいかと。そ、それではっ!」
 配下のふたりはビビりながらも退却することに決めたようです。扉が開かれ、そそくさと出てきました。見た目的には、これまた天使のようでした。というか、扉開けっ放しにしていきましたよ、あいつら。
「あら、エメラルドではないですか。報告に来たのですね。どうぞお入りください」
 女神様は扉の隙間から私たちの姿が見えたようでした。今更お淑やかな喋り方をされても困るんですが、とにかく私とエメラルドさんは女神様の待つ部屋に入ることにしました。女神様はまるで玉座のような椅子に座っていました。
「お久しぶりです、女神様。相変わらず言いがかりをつけられて大変ですね」
「なんだ、聞こえてたのかよ。まあ、私も扉の外に誰か来たのは分かってたけど」
 ……素に戻るの早いなあ。もうちょっとキャラを維持する努力してもらえませんかね。
「私はネル・パースと申す人間です。ただの旅商人ですが、なんとか頑張って夢魔と戦っています」
「ただの旅商人? なるべく強い人間を見つけろと言ったはずだが、どうなってるんだ、エメラルド?」
「あ、えっと、それはまあいろいろとありまして」
 そういえば、エメラルドさんが落とした指輪を偶然拾ったのがきっかけでしたね。エメラルドさんは自分の失敗を隠したいようで、あわあわとしていました。
「いろいろか」
 女神様はなんとなく事情は察したようですが、深く追及する気はないようでした。
「もし偶然指輪を嵌めてしまったのなら外してやってもいいが、どうする?」
「いえ、必要ありません。むしろ私は夢魔ナイトメアを自分の手で倒したいと思っているくらいです」
「なるほど、いい目をしてやがるな」
 ふっと笑いながら、女神様は私を褒めてくれました。
「それに比べて、さっきの奴らときたら、どうにかして私を無能女神に仕立て上げようと必死さ」
「あ、合点がいきました。彼女たちは自分たちが神になろうとして、女神様を神の座から引き摺り下ろそうとしてるんですね」
「私以上に強く賢く優しい奴が現れれば、神の座なんざすぐにでも譲ってやるつもりなんだがね」
「でも、人間の世界でもそうですよ。他人の足を引っ張って自分をよく見せようとする人は珍しくありません」
「人間はいいさ。私にとっては我が子のようなものだからな。だから、私はあいつのやろうとしていることが許せないのさ」
 あいつというのは、ナイトメアのことでしょう。しかし、何故でしょうか。女神様は寂しそうな顔をしているように見えました。
「でも、女神様、ナイトメアにはナイトメアなりの考えがあるようです。奴は本当に――」
「間違いなく倒すべき相手だ」
 エメラルドさんの言葉を遮り、女神様は断言しました。
「こうしている間にも被害者は増え続けている。放っておけば寝たきりの人間だらけの世界になるんだ。そんなのが正しい世界なわけない」
「そ、そうですね。ごめんなさい、私なんだか迷ってしまって――」
「迷うのは悪いことじゃない。だが、敵に迷いは見せるなよ。奴らは人間を殺す気はないと言っているが、私に言わせれば奴らのせいで死んだ人間だっている。そんな奴らに隙を見せたら殺される可能性だってあるんだ」
 そう、ロレッタさんのようなケースは他にも考えられます。女神様がどんな状況を想定しているかは不明ですが、決して杞憂ではない心配事だと思いました。
「すみません、女神様。差し出がましいかもしれませんが、一つお聞きしたいことがあります」
「なんだ? 構わん、言ってみろ」
「ナイトメアは倒すべき相手、――私もそう思います。しかし、問題はどうやって倒すのかです。何か策はあるのですか?」
 意を決して、私は女神様に訊ねました。質問のご回答をいただくには、わずかな時間が必要でした。しかし、女神様は不快に思って黙っているわけではなく、どこまで話していいものかと悩んでいる様子でした。