サカサマフォーチュン
途切れることなく、鳴り響く時計の秒針の音。
独り眺める、スマホの画面。
チクタク…チクタク…
途切れることなく、鳴り響く時計の秒針の音。
メールの返信はこない。
この気持ちは悲しさではない。
苦しみでもない。
ただ純粋な、愛しさだ。
今までかつて味わったことのない、不思議な感覚が体と心を包み込んでいる。
チクタク…チクタク…
それでも、時計の秒針の音は鳴り響く。
画面の向こうの彼女は、付き合っている訳ではない。
かといって、付き合うつもりもない。
それでも、友達として、好きだ。と思う。
ゆえに、彼女が愛しくて仕方がない。
メールが来ないのは悲しい。けど、それを待つ時間も、何気ない幸せなのかもしれない。
と、不意に着信音。
だが、それはただの迷惑メールだった。
チクタク…チクタク…
メールを待つのは、こんなにも長かっただろうか。
…まだ、2分。
あ、また、着信音。
今度は、間違いなく彼女からのメールだった。
内容を見る。
「来年からね、私、アメリカに留学することになったんだ。」
留学。
県外などでは無い。
海外。
遠すぎる。遠すぎた。
そのメールは、
……もう、会えなくなるね。
の裏返しだ。彼女は留学を自ら選んだ。
彼女の決めたことだ…逆らう気にはなれない。でも、彼女は俺と会うことは大事ではなかった様だ。
悔しかった。
だから、無心で、
「お前、英語喋れないのに、アメリカなんかいけないだろ。やめとけよ。」
送信してしまった。
引き止めてしまった。
俺は酷いやつだ。
離れ離れになるというのに、引き止める言葉ですら強がっている。
さっきのメール何度も見返した。
「アメリカに留学することに…」
「留学することになった…」
……いつみてもやはり結果は同じだ。
…気付けば泣いていた。
次のメールが来る。
「実は、もう手遅れなんだ。メール、一番したまで読んでね。」
心臓が締め付けられた。
苦しい…
言われたとおり、ゆっくり重々しい動きでさっきのメールを確認する。
「来年からね、私アメリカに留学することになったんだ。」
………下にスクロールする。
「…今まで、本当にありがとう。」
メールという電脳をつうじて、俺と彼女の関係は絶たれた。
ああ、ずっと友達、なんて言わなければ良かった。
…俺はサカサマな天邪鬼だ。
作品名:サカサマフォーチュン 作家名:冬葉一途