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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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生きる

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八重は最期にヒマワリの花に水をやり、水道の蛇口を普段よりも固く締めた。渇ききった庭が夕立の後の様に潤いを見せてくれたから、庭のムクゲの白い花もノウゼンカズラのオレンジ色の花も生き返ったように生き生きと感じられた。ヒマワリは大きく花が咲いていたために、その重さで地面の方に垂れていた。八重には自分を見送っていてくれるように感じていた。
 駅に向かう途中で娘への手紙を投函した。その手紙には、実家に戻って家を守って欲しいと懇願した内容であった。それが出来ない時は家を処分し、あなたの父の仏壇だけは守って欲しいと書いた。東京に住む娘たちが、青森に来る事は不可能だと承知で手紙を書いた。娘は43歳で夫はその2歳年上だから、定年までには程遠い。
 八重は今年で63歳になった。夫がなくなり3年経っていた。八重は初恋の相田幸一の家に行く決心をしたのである。それは相田からの手紙からであった。

 突然の手紙で失礼いたします。また不謹慎な手紙であることは承知いたしております。僕はずっと八重さんを待っていました。八重さんの連れ合いがお亡くなりになられ3年経つのを待って手紙を書きました。医大に合格しないまま、僕は挫折し、八重さんを諦めましたが、再び八重さんを捜した時はすでに八重さんは結婚していました。でも忘れる事が出来ず、その想いで仕事に打ち込んできました。医者にはなれませんでしたが、ドラッグストアで成功し、120店舗の店を持つようになりました。まだ1度も結婚した事がありません。ある時は八重さんを略奪しようかとも思いました。でもそれでは幸せな家庭は出来ないと感じ、待つことにしたのです。それは賭けですから、一生結ばれない可能性もあるとは解っていましたが、あなたを待つ事が僕の力になりました。
 全てを捨て、タイムスリップしてきて下さい。20歳の時の気持ちになってください。

 八重は手紙を読んで心は動かされなかった。この年になって何を色恋の手紙などと思ったのであるが、手紙をシュレッタ―にかけながら読み返してみると、鮮明に当時の事が思い出されて来たのである。
 電話やメールのやり取りが重ねられて、八重は自分の生き方を考え始めた。家を捨てる事が背徳であるかもしれないが、娘に任せればよい。それが無理なら捨てればよい。いつかは家は絶える。そんなことよりも大切な事はたった1度の人生を自分の考えで生きていくことだと八重は感じた。
 八重は新幹線に乗った。行先は身内に知らせなかった。あと何時間かで八重は新しい人生を迎える。





作品名:生きる 作家名:吉葉ひろし