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セテゥンタ
セテゥンタ
novelistID. 44095
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夏の思い出

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改札口を出て、私は待ち合わせ場所である信号の近くにある本屋に急ぎ足で向かった。待ち合わせ時刻ギリギリだったので、もう、誰か来ていると思ったが、私が一番早かったようだ。私は仕方がないので、本屋の前で、みんなを待つことにした。本屋の中で涼みたいが、店の中に人がたくさん入っているし、待ち合わせ時刻ギリギリということもあって、私は本屋に入ることを諦めた。私は携帯を開き、デジタル時計を眺めていた。辺りはすっかり夜だというのに、首筋や服が汗で、あっという間にビッショリ濡れた。早く飲み屋に行きたい!私の頭の中は、飲み屋でビールを飲むことでいっぱいになった。

待ち合わせ時刻を5分過ぎて、営業の木下さんがようやく現れた。だが、残りの先輩社員2人が見当たらない。2人はどうしたのかと、私は聞いてみた。すると、木下さんは……。
「山田さんは、仕事で遅れると聞いたんだけど、田中さんは、連絡が付かないんだ。もう一度、電話を入れてみるけど……」
「はい、お願いします」
私は木下さんが携帯で電話をしている間に、自分の携帯を開き、再び、デジタル時計を眺めて、夏の暑さを我慢した。木下さんが携帯を閉じて、電話が繋がらないと言ってきたので、木下さんが2人に先に行くことをメールで連絡して、現地に向かうことを決めた。私は、嬉しかった!飲み屋に行けるのだから!

飲み屋の前まで来ると、店から店員が出てきたので、営業の木下さんが、『予約していた木下です』と言った。その言葉を聞くと、店員がすぐに店内に帰っていった。おそらく、予約者と座席の確認をするためだと、私は想像した。しばらくすると、店員が、再び、私達の前に現れた。そして、申し訳ないという顔をして……。
「お席を片付けますので、少々お待ちください」
と言った。指定時刻に予約したのに、座席が確保できていないとは、どういうことですか!と言いたいところだったが、夏の暑さが私の気力を奪う。私は中に入って、ビールを飲みたいと思った。営業の木下さんも、早く中に入ってビールを飲みたいだろうと思って、木下さんの方を見ると、カバンの中からミネラルウォータを取り出していた。ペットボトルに白い霧が掛かっていることから、自販機かコンビニで買って、まだ時間があまり経っていないことが想像できる。まさか遅刻した理由は……。と、木下さんに訊ねようとした瞬間、店員が現れた。私は口の中に溜まった言葉を呑み込んで、店の中に入ることにした。

店内に入ると、酒で寄った客の声で、既に賑わっていた。私達は、店員に案内されて、席に着いた。さっそく、ビールを注文しようとしたが……。

「2人が来るまで注文はやめましょう」
と木下さんに言われてしまった。私は、再び、夏の暑さと戦うことになった。せめて、クーラーの涼しさで、暑さを忘れようと考えたが、酔った客の熱気で、クーラーの涼しさに浸ることができない。私は、早く2人に来て欲しいと願った瞬間だった。

「こんばんわ」
と言って現れた声の持ち主は、山田さんだった。木下さんが、注文のGOサインを出したため、私は店員を呼んで、ビール3杯と、餃子や焼き鳥などを注文した。私は『まだか、まだか』とビールを待ち焦がれていた時、ようやく最後の一人、田中さんが現れた。私は、すぐに店員を呼び、残りのビール1杯を注文した。

ビールが来る間、会社での出来事や、今日の暑さについて話し合った。夏の暑さについて、話が終わりそうになったところで、店員が現れ、テーブルにビールと食べ物を置いて、どうぞゆっくりして行ってくださいという顔で、挨拶をすると、店員がカウンターの方へと戻っていった。

私達はグラスをカチンと当て合うと、こう言った。
「お疲れ様~。かんぱ~い」

――グビグビドゥ~。
私はビールのジョッキを持って、ジョッキから溢(あふ)れんばかりのビールを口の中へと入れていく。
口の中で泡の感触を味わいながら、私は胃の中にビールを流し込んでいく。ジョッキの底を見つめて、最後の一滴まで飲み干した。そして、ジョッキが空になったところで、私は両目を力強く閉じて、美味いという顔をした。

――グビグビドゥ~。
私に続いて、隣の席に座っていた営業の木下さんが、私と同じ動作でビールを飲み干した。

――グビグビドゥ~。
さらに、向かい側に座っていた山田さんと田中さんの2人が、ビールを飲み干していく。
私がその動作を見届けた後、木下さんが拍手し始めたため、私も、それに合わせて拍手をした。

私はテーブルに設置されているコールボタンを押し、店員を呼ぶ。店員が私の横まで来て、注文を聞いてきた。私はタコワサと唐揚げ、そして、グビグビドゥ~をジョッキで4杯、注文する。
店員がテーブルを離れて行った。私達は会社での出来事や失敗談、笑い話をして、ビールが来るのを待った。

アルコールの酔いが顔に出始めた頃、注文したビールと食事が到着した。私達は、泡立つビールを見て、笑みを浮かべた。

「かんぱ~い」
再び、挨拶を交わし、私達はビールジョッキを持つと、胃の中へと、グビグビドゥ~を流し込んで行った。一杯、二杯、三杯とビールを次々と飲み干していく。ビールを飲むたびに、夏の暑さを忘れて行った。

何杯飲んだか忘れた頃に、木下さんが険しい表情で、カウンターの奥にあるトイレに向かって走って行くのが見えた。辺りを見回すと、がやがや騒いでいた酔っ払いの客達が誰一人、見当たらない。店員は、酔っ払い達が散らかして行った食事や酒を片付けていた。山田さんと田中さんの顔を見てみると、二人共、顔が青ざめ、口元を押さえていた。どうやら、私達は飲みすぎてしまったようだ。

「木下さん早く……」
と、山田さんが言った。

2人共、あまりにも、体調が悪そうだったので、見かねた私はこう言った。
「店員さん、エチケット袋、3つお願いします!」
私が店員に声を掛けた瞬間だった。

――グビグビドゥ~。
トイレの中から、木下さんの吐く声が聞こえた。私はその声を聞いた途端に、突然、腹の底から昇ってくる熱い何かを感じた。私は必死に口を手で押さえた。

――グビグビドゥ~。
手の隙間から、熱い液体が洪水のように溢(あふ)れだした。テーブル一面が、熱い液体のオブジェに包まれた。そして、それに釣られるように、山田さんと田中さんも、手の隙間から、洪水のように、その液体が溢れ出た。

テーブルが一面、まるで洪水でもあったかのような光景になった。店員が慌てて駆け寄ってきて、エチケット袋を私達3人に手渡すと、山田さんと田中さんの背中をすすりだした。私は一番初めに店の外に居た店員だと、すぐに気づいた。私は、良い店員だと感じた。しばらくすると、 木下さんがトイレから戻ってきた。木下さんは、2つの大きな目玉と口をぱっかり空けて、テーブルを避けるように立っていた。私達は店で気分が優れるまで休憩すると、店員に何度も謝って、飲み屋を後にした。

――あれ以来、私は酒を控えるように心がけている。
「シャッチョさん、今日は5件、周りましょや」
「よっしゃ、いこいこ」
作品名:夏の思い出 作家名:セテゥンタ