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でんでろ3
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novelistID. 23343
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朝顔は夜に咲く

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「いよぅ、ジョニー、元気そうだな」
今、ジョニーと呼ばれ、そう名乗っているのは、俺、針モグラのジョニー。
「いよぅ、ヤングミスター」
普通老木は歳を多くサバを読むものなのに、この爺さまは何故か若くサバを読む。それで、俺の付けたあだ名が「ヤングミスター」だ。

 この森では、名前は、皆、勝手に呼ぶ。俺のことも誰も「ジョニー」なんて呼ばない。針の山とか、たわしとか、殺人ボールとか、モホロビチッチ不連続面とか、チャチャダボーンクルンカセムとか、呼び放題だ。
 ヤングミスターに至っては、皆さん、ご想像の通りで、一番お手柔らかいので、枯れ木に始まって、おが屑、かんな屑、この木、何の木、気にならねーよ。

 そんな爺さんのところに、俺だけが足繁く通っていたのは、もちろん、気が合ったからだが、それだけじゃない。
 実は爺さんは過去に何度も人間として人間の世界で生活していたのだ。その話を聞くのが、俺の楽しみなのさ。

「そういや、ヤングミスターよぉ。先生みたいな事は、やったことは無ぇのかい?」
「先生か。そういえば、戦時中に少年兵たちの教官になったことがあるぞ」

「全体止まれ! 右向けー右! 気を付け!」
俺がそう言うと、きちんと止まり右を向いた少年兵たちが、狂ったように俺に正拳突きを入れてきた。
「待て、待て、待てーっ! お前ら、いきなりなんだ?」
「それは、教官が『木を突け』と言ったからであります!」
「……まさかと思うけど、君たち、私の正体が見えるの?」
「はっ! なぜか我々には教官が木に見えるであります!」
(子供とか心のきれいな人とかには、たまに見えるんだよなー)
「あー、ではあるが今は私は君たちの教官なので、そうに扱うように」
「はい、分かりました」
「では、今日の課題を発表する。飯盒炊爨だ」
「分かりました。では、貴様、教官の右足を押さえろ。貴様は左足で。貴様と貴様で右手と左手だ」
「な、何をする気だ?」
「知れたことです。教官の身体をバラバラにして、薪にします」
すると、1人の少年兵が、
「馬鹿野郎!」
と割って入った。
「教官の話を聞いてなかったのか?」
彼は、少年兵の肩をつかみ真っ直ぐに目を見て言った。
「生木なんかじゃよく燃えないから薪にならない」
「ガソリンをかければよく燃えるぞ」
別な少年兵が言うと、
「馬鹿者! ガソリンはお国の兵器を動かす大切な燃料だ。そんな馬鹿なことに使えるか?」
少年兵たちは、しばし、黙り込んだ。
 沈黙の後、先ほど私を切り刻もうとした少年兵が私のもとにやって来た。
「教官、僕が間違っていました。そして、僕たちには夢が出来ました」
「ほう、なんだね?」
出来る限りの威厳を取り繕って私は答えた。
「木炭自動車を作ることです」
「やーめーてー!」

「ダメダメじゃねぇか」
「まぁ、今までも基本的にダメダメだったじゃろう?」
「しっかし、夏になりやがったなぁ」
「また急に、どうしたぃ?」
「夏が来れば思い出すのよ」
「静かな尾瀬かぃ?」
「大勢で行ったっけ」
「やめろ。お前が、そんな話をするから……」
「悪りぃな……。何か思い出させちまったかい?」
「朝顔が見たくなっちまった」
「水芭蕉だろうがっ!」
「いやぁ、出かけるのグズグズしてて、移動もグズグズしてて、移動の途中で気持ち悪くなって、途中の朝顔見て引き返したんだ……」
「本当! とことんダメダメだな」
「いやぁ、それが、ここんところ、本当に弱ってきていてな。移動もできないし、それ以上に時間がつらい」
「時間?」
「ほれ、お前さんとも、こうして、夜しか会っとらんじゃろう。最近は、お日様のでている時間に起きとるのが、とてもつらいんじゃ」
「それで、朝顔が見たいって、そりゃ、無茶だろう?」
「漢気のある朝顔が『朝顔は夜に咲く』とか言って咲いてくれないかな?」

 結局、何の策も思い付かぬまま、満月の夜に爺さんのところに行った。
「おぅ、ヤングミスター。お肌の調子は、どうだい?」
「見ての通りのバリバリよぉ」
ひとしきり笑い会った後で、俺はふと、
「そういえば、爺さんの話で恋の話って無かったような……」
「恋な。まぁ、無くも無い。これは、人間じゃなくて、木としての話じゃ。まぁ最後に身を切られるような悲しい別れが待っているのだがの」

「ヘーイ、そこを行く素敵な彼女!」
「いや、木だから、別に、どこにも行けないんだけど……」
「そんな事はないさ。その気になれば、どこにだって行けるんだぜ。駅前のローソンとか、高校前のローソンとか、歩道橋横のローソンとか……」
「ローソンばっかりじゃないのよっ! あんた何? ローソンの回し者?」
「おっと、御免よ。サークルKサンクスの方が、お好みだったかい?」
「もう、いぃっ!」
「ちょっと、待ってくれ。君は自分の美しさに気付いていないのかい? 君の美しさの前では、アゲハチョウも色あせて、大きなモンシロチョウになってしまうだろう」
「アゲハチョウって、形も独特だから、見間違わないんじゃないかしら?」
「なんてこった、君って奴は美しさだけでなく、知性も兼ね備えているんだね。どうやら天は君に荷物を与えてしまったらしい……」
「二物でしょ……」
「ゴメンよ。こう見えて、僕も、まだ、99歳と若い方だからね」
「適当に、サバを読まないで下さる? 私には木の本当の歳が分かるのよ」
「ほぅ、どんな、超能力なんだい?」
ギコギコギコギコギコギコギコ
「ギコギコギコ……って、痛いっ、痛たたた……」
見ると、彼女が、ノコギリで、俺の身体を切っている。
「ひょっとして、本当の歳を知る方法って……」
「ん……、年輪を数えるんだけど」
「勘弁して下さい」

「身を切られるような……て、実際、切られてるじゃないの」
「はっはっはっ、ほら、私も若かったから……」
「ローソンとか、サークルKサンクスとか、あんたの過去の中では、最近じゃないか!」

 その日、俺と爺さんはいつも以上にはしゃぎ、話し、いつの間にか、寝てしまった。
 そして、まだまだ夜が明けるには、だいぶ間があったが、俺は爺さんに起こされた。
「見ろよ。二重の朝顔が咲いてやがるぜ」
そこには、森の王アーサーが、満月に向かって「ガオー」と吠える姿があった。
「アーサーが王だってだけで、立派に朝顔なのに、その上、アーサーが『ガオー』と吠えている。これぞ二重の朝顔だ。こんな立派な朝顔は見たことがねぇ」
違いねぇ。大きな借りが出来ちまったぜ。返す方法を考えなくちゃならねぇじゃねぇか。

 その朝、爺さんは逝っちまった。なぁ、爺さんよぉ。今度会ったときは、話の中じゃなくて一緒に世界を回ろうぜ。
作品名:朝顔は夜に咲く 作家名:でんでろ3