いるいる辞典 スピッツな人
「田部さん、よろしいかしら」
覚えのある顔の1人、山下美和子である。正直関わりたくない人物だ。自分大好き人間で、気に食わないコトがあれば所構わず喚き散らす。まるでスピッツだ。
「なんでしょう」
「わたくしはゴミ係じゃありませんからね。備品は整理しますけど、補充は各自でして下さいね。さっきゴミ袋が切れてましたのでね」
チェックするくらいなら自分でやれよと言ってやりたい。だがそこは大人の対応で返しておく。それが一番だ。何か言えば噛みついてくるのだから。
「了解しました」
「よろしくお願い致しますね」
去り際に舌を出してやったのは言うまでもない。その時、耳元で声がした。
「いけないんだぁ、タベっち」
驚いて振り返る。いたずらっ子な微笑みを浮かべたさやの登場だ。気配を殺すのは特技とみえる。
「見ちゃった」
何かの用で後ろを通ったようで、後ろ手を組んで楽しそうに席に戻っていった。罰は悪くはならず、不思議と癒されてしまった。全く敵わないお姉さんだ。
昼休憩をハンバーガーで済ませていると、DMが楽しそうにやってきた。
「おい、田部。これ見ろて」
突き出したるはただのジャムパンである。袋を見ても何の変哲もない。
「この袋よぅ、パンパンだろぉ。パンの袋がパンパンだて」
きょとんとしているとDMは繰り返した。どうもダジャレを聞いてほしいだけのようである。
「えっらいパンパンっスね」
「だろぉ」
満足げにパンを叩きながら去っていった。全くもってどうしようもない人だ。このD.O.の先行きは不安である。オレも身の振り方を考えなければならないかもしれない。
作品名:いるいる辞典 スピッツな人 作家名:飛鳥川 葵