君の声
「澤村さんよりですか?やばいっすね。」
「お前、声かけてこいよ。」
「え~、嫌ですよ。」
「いいから―――」
「俺行きますか?へへ」
拓矢と浩太の間に割って入ってきたのは、樹季と同じ事務所で浩太と同期の花村太智だった。太智は無類の男好きで有名で、樹季の事も気になっていた。
「太智。あいつが女だったら捕まるぞ。」
「大丈夫だって。樹季だってあんなに飲んだら記憶の一つ二つは無くなるだろ。」
「そうは言っても・・・。まぁ、いいか。行って来い!」
「あいあいさぁー。」
結局、作戦は大きく変更され太智の独断行動となった。ちなみに、太智が男好きだというのは樹季も知っていた。
「樹季❤飲んでる?」
「見ればわかると思いますけど・・・。最近ストレス溜まっちゃって。」
「へー。樹季でもストレス溜まるんだぁ。どんなの?」
「例えば・・・拓矢のやつは生きていない方がいい。」
「おぅおぅ。で、酒で取っ払ってんの?」
「酒と・・・。」
樹季の目が拓矢に対しての腐った目から、太智への鋭いまなざしへ変わった。
「お前みたいに俺のとこにのこのこやってくる奴ら・・・。」
「なっ・・・。」
ダンッ!
樹季に押し倒された太智。その音に広間が静まり返った。同時に、その場にいた者は全員樹季と太智を見た。最初は何が起こっているのか理解しがたい状態だったが、よく考えると公共の場ではしてはいけないことだと皆理解する。太智の上に樹季が馬乗り状態になっていた。
「おい、あいつら何してんだ・・・。」
「止めたほうがいいんじゃない。」
何人かは、マスコミを恐れ止めようと思ったが遅かった。
「あ~あ。ストレス溜まりまくっちゃってんだよね。あ~む。」
「んっ。」
『キスしたあ~!!!!!!!!!!!!!!』
樹季は太智に熱烈なキスをしていた。
「んっ。いいね。ストレス解消できた。」
「え~っと。その~。」
どぎまぎした空気の中、セナがカメラを構えている人間に気が付いた。
「やばい!マスコミがいるよ!」
「ばれたか・・・。」
マスコミの男が張り付いていたらしく、確実に写真を撮られてしまった。
この日は、樹季は眠ってしまい拓矢が家に送るという事になった。
「おい、樹季。起きろよ。」
「何だよぉ~。」
「何だよじゃなくって。お前何したか分かってないだろ。太智さんに迷惑かけたんだぞ。」
「いいだろ~。」
「よくない。まず、うちに帰るぞ。歩けるか?・・・歩けるわけないか・・・。」
拓矢は、樹季を背負い居酒屋を出た。
「俺、お前のうち知らねえぞ。って、寝てるし・・・。しゃーない、俺ん家でいいか。」
樹季は人付き合いを嫌っていた故、親しい仲の人間はいない。そのため、家を知っている人間はいない。拓矢はしぶしぶ自分の家で介抱することにした。
続く・・・。