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manjusaka

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此岸ノ黄昏 4



「なぜ、アイオリアだけだったのですか。その秘技をおかけになるべきだったのではないのでしょうか……あなたの秘密を知る私にも。あの瞬間ならば、私とて防ぎようはなかった」
 重大なミスをしたのだと、咎めるようにシャカは眉を顰めた。
 シャカの言うことも当然だと仮面の下で薄く笑む。正直、考えなくもなかった。意のままにシャカを操ることができれば……それこそ、ただの使い捨ての駒として冷酷に切り捨てることができただろう、と。けれどもシャカにはそうしなかった。
 できなかったと言うほうが正しい。
「―――おまえの力を過小評価してはいないし、同時に放ったところで中途半端な技となるだけであった。優先すべきはアイオリアの忠誠心を得ること……そう判断したまでだ」
「なるほど。で、私は今も忠義を尽くしていると教皇はお思いなのでしょうか」
「だからこそ、この場に現れ出でたのではないのか。そうではないというならば、アイオリアを助けるために……違うか?」
 辛辣な言葉に苦笑しながら答える。シャカの『教皇』への忠義は無きに等しいものだろうが敢えて口にした。シャカがこの場に現れた理由を憶測するならば、アイオリアへの友情のためというべき理由の方がしっくりとくるというもの。本当に私の叫びが聞こえたというならば、違う答えもあったが。
 考え及ぶ前に「フッ」と小さくシャカは笑った。そして、ゆるりと口角を吊り上げた。
「どうして、あなたに忠義の心を持てましょうか。アイオリアを助ける?お考え違いも甚だしい」
「考え違いとはな……では一体?」
「私は言ったはずです。謀反人は私が天誅を下すと。あなたをアイオリアなどに……誰が討たせてなど、やるものか」
 シャカの身体が青白い燐気に包まれたように見えた。その説明はシャカが聖域に戻った理由もバルゴを納めたことも、つくづく納得のいく、もっともらしいものだった。
「今はバルゴの意に従い、女神と嘯く輩から聖域を守るため、教皇として君臨するあなたをお守りするためにこの力を揮いましょう。ですが――」
 その先は言葉を紡ぐことなく、シャカはただ嫣然と笑みを浮かべた。それはまるで非の打ちどころのない美しいフォルムを惜しげなく晒し、艶めかしく誘い、惑わせる花のようにも見えた。
 決して触れることを許さない、白く清らかに咲き誇る天上の花だ。
「なるほど、そういうことか……」
 どんなに叫んでも、足掻いても、あどけない笑みを浮かべるシャカはとっくの昔に届かぬ場所に行ってしまったのだ。わかっていたことだ。
 それなのにシャカを引き戻したくて、無意識に仮面へと指をかけている自分がいた。やっとの思いでその指を引き剥がし、呻くように告げた。
「―――いいだろう。見事この危機を打ち払うことができた際には、おまえの望みを叶えてやってもいい」
 怪訝にシャカは眉を顰めたが、すぐさま元のように感情を失くした表情へと戻っている。
「フッ。ご冗談でしょう?」
「いいや、本気だ。おまえにこの首をくれてやろうというのだ。そのかわり女神の名を騙り、聖域に攻め入ろうとする不穏分子を排除し、聖域を守れ」
 低く垂れこめた声で命じる。黄金聖闘士として申し分ないシャカの力を女神と付き従う青銅聖闘士へぶつけた時、どのような結果に至るのか。僅かに高揚するものがあった。
「ほぅ……本気かね」
 独り言のように呟くシャカ。真意を測り兼ねたようだ。
「ひとつ、尋ねたい。なぜ、あなたは教皇たるのか―――ぜひとも教えていただきたいのだが」
「なぜ、そのようなつまらないことを聞く?」
 閉じられているはずの双眸がまっすぐに私を捉えているような気がした。
 美しい海のような、晴れ渡る空のような……そんな蒼い眼差しだったと遠い記憶が揺さぶられた。シャカが知りたいという教皇たる所以。様々な思いが駆け巡り、浮かんでは消えた。


作品名:manjusaka 作家名:千珠