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manjusaka

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此岸ノ黄昏 1



 書き損じた紙をぐしゃりと握り潰す。背もたれ深く体を預けながら、やり切れぬ想いを吐き出すように深々と溜息をついた。
「―――またしても失敗とはな。たかが青銅相手に一体どういうことか」
「誠に不甲斐無きばかりで痛み入ります」
 報告に上がった事務方の長が嗄れた声で消え入るように伝え、丸まった背中をさらに縮ませる。深く項垂れるその様を穿つように見つめた。
 先手、先手を打ったはずだった。しかし、結果は後手後手でしかないと思える失態続きである。歯車は少しずつ狂い始め、今ではもう取り返しのつかぬほど噛み合わなくなってしまっていた。

 ―――いや、違う。

 抜け落ちた歯車たちが年月を経て少しずつ揃い、やっと廻り始めたのだ。
 射手座の黄金聖衣が城戸沙織という娘の元に留まり続けるのも、刺客たちがことごとく格下であるはずの青銅聖闘士に打ち負かされるのも、かの少女が真なる女神なのだと明示するがごとく、すべての事象があるべき姿へと仕組まれたように進んでいくのだ。
 仮初の統治による殻に覆われていた聖域。
 深い眠りから覚醒し、決起した力は奔流となって殻を打ち破る。粛清に要する時間など、幾何の時も必要ないだろう。
 押し寄せるうねりに対抗する手段などあるのだろうか。いや、きっとない。
 あるべき本来の姿を現すように殻は破られ、脆く崩れ去るのだ。変えられぬ理を指し示すように。
 己が正義を果たすために戦女神は容赦なく、悪に加担する者たちを淘汰する道を選び、雄々しく進むのだろう。立ちはだかる壁となって女神の前に立った時、己にはどのような審判が降されるのか……想像に難くない。ずんと重く圧し掛かるような頭痛に思わず、顔を歪める。
 痛みを取り払うように深い息を数回繰り返したあと、折り畳まれた腰のまま固まっている事務方の長を眺める。腹の読めぬ者たち。彼らは今までと同様、今後の行く末をただ静かに見定めるだけなのだろうか。
「私が選らんだ道は正義か、悪か……」
 毀れ出た小さな独白に小さく丸まっていた背が動き、落ち窪んだ目と合った。珍しいことだった。
「なんだ?」
「いいえ」
「思うことがあるのだろう?話すがよい」
「―――先代様もまた同じことを仰せでございました。次期教皇をお定めになる際に」
「なるほど。そう、か……もう、下がってもよい」
「はい。承知致しました」
 前教皇が迷い、決断した人選。それは正義であった。けれども悪でもあった。ただ見る角度の、立場の違いでしかない。僅かで、大きな差。きっと自らが下した決断もまた同じことなのだろう。
 聖域の昏い闇を知る年老いた老人はゆっくりと立ち上がり、もう一度深々と礼を尽くす。その背に向けて迷いを振り払いながら、声をかけた。
「―――例の件は早々に進めよ。そして聖域に到着次第、奥で詰めさせておくように」
「仰せのままに」
 立ち去る後姿を見送ったあと、椅子から立ち上がった。シュッシュッと衣擦れる音を耳にしながら、奥間へと移動し、結界の鍵を開け、外へと繋がる扉を押し開ける。
 まばゆいばかりの光に目が眩む。
 ようやく目が慣れた頃、乾いた風にあおられながら、開けた場所へと躍り出た。神聖で穢れた星見の場所。ごつごつとした岩肌だけが剥き出されていた。奪い取った教皇という地位に縋る己には何も語られる言葉もなく、ただ静寂に満ちた場所でしかなかった。
 空を見上げれば、わずかに浮かんだ雲があるばかりで、醒めた空だけがそこを支配していた。
審判の時は刻々と迫っている。
 足掻いても、足掻いても……宿命であるとばかりに示されるただ一つの道。それでも私は抗い続けるしかない。静かな風音に耳を澄ませながら心の在処を定めた。



作品名:manjusaka 作家名:千珠