サキコとおっさんの話6
やはりいつもの定位置。
「うぇえええい、アホのサキコー!」
「サキコのブスー!」
駄菓子を購入したらしい近所の悪ガキのセリフに、サキコは「うっせぇ!!さっさと帰れ!!」と怒鳴る。そんな罵声にも慣れているのか、全く気にせずに「バカサキコ!またな!」と言いながら立ち去って行った。
おっさんは本日何度目かの一服。
ベンチに腰掛け、サキコは「あー疲れた」と一言。
「モテ期か?」
そのやりとりを一通り見た後、おっさんは彼女に問う。はぁ?とサキコは怪訝な顔をしながら隣で突っ立っているおっさんを見上げた。
「あれがモテ期の効果だって言い張るんですか!子供にモテてもちっとも嬉しくないんですけど!どうせモテるんならカッコいいのが来て欲しいです!」
そうか、とおっさんはタバコを口に含んだ。
上空ではカラスの大群が変な鳴き声を上げて旋回している。
「おっさんモテない方だっけ?」
突然そんな質問を浴びせられ、おっさんはつい喉元に煙を引っかけてしまった。ぐっと詰まった後、げほげほと咳き込んでしまう。
「余計なお世話だ!」
「きっと顔は悪くないと思うよ!ただその何回もタバコ吸いまくるの止めた方いいと思う!肺とかきっと真っ黒だよおっさん!危ないよ!」
「そ・・そうだよなぁ。そろそろ止めなきゃなーとは思うんだよ。思うんだけどさぁ」
でもなぁ、なかなか止められないんだよなぁ、つい買っちゃうしなーとか、延々とうだうだするおっさん。
サキコは「ほらー、もし子供とか出来た時とかさー、口臭いとか言われたくないじゃんかぁ」とにこやかに毒を吐いた。おっさんは地味に傷付く。う・・・と言葉に詰まり、反論できない。
ゲームで言えばおよそ三十ポイントのダメージだ。地味にくる。
「そんなに臭いとかさらっと言うなよ・・・」
髪が薄いとか臭いとかいう表現に敏感な時期なのに。
「いやいやいや、意外に子供って毒舌だよ?正直だからさぁ。あたしは逆に言われすぎてもう慣れてるしいいんだよ。何つーの?『子供泣かせのサキコ』って呼ばれてるからさ!」
それはどうかと思う。
逆に泣かせてどうするんだよ・・・と思いながら、おっさんはタバコの箱をとりあえずしまった。ちょっと節約。
「よし、あたしからおっさんにプレゼントするよ!ちょっと待ってて!」
サキコはそう言うとコンビニに入っていった。
おっさんは何か気持ちが沈む。しかも女子高生に言われるとか何だかくるものがあった。少し間を置いて、彼女は買い物した物を持って帰ってきた。
「んじゃこれあげるからさ!タバコ終わったらこれひたすら食えばいいよ!ちょっとお腹緩むかもしんないけど!」
手渡された物はフリスク。
彼女は可愛い笑顔をしながら、「んじゃ帰るね!」と言うだけ言って去った。
おっさんはサキコを見送るも、深い深い溜息。目の前の現実に打ちひしがれる。
・・・俺、遠回しに口臭いって言われてる訳?
被害妄想を炸裂させたおっさんはもの凄く凹む。でも貰ったフリスクは食う。
時刻は十九時半だった。
作品名:サキコとおっさんの話6 作家名:ひづきまよ