ニキビ
その薬は以前ニキビが酷く且つ出来るとえいやとばかりに端から潰していき最終的に跡に残しまくっていたぼくを見かねて、母親が何やらぶつくさ言いながら買ってきたものだ。これが結構効くらしく、案外素直にニキビは引っ込んでくれる。使い方は簡単。患部にビーズ大を 塗り込むだけ。
ぬりぬり。白いクリーム状の薬が透明になっていく。ぬりぬり。はやく治れ。ぬりぬり。いや、流石にそんなおまじない効かないしそもそも信じてないし。ぬりぬり 。
ニキビによる頭痛でぼくはイライラしていた。じくじくとぼくを苛むニキビは、一晩程度では完治してなどくれなかった。
あぁ痛い。きっとニキビの芯が頭蓋骨を突き破って脳ミソにまで達しているから痛いんだ。そう考えてたら余計に痛くなってきた。あぁ痛いなちくしょう。
頬杖をついて窓の外を眺めた。ぼくの通う大学は結構な田舎にある。右は田んぼで左は山、空は雲がちらほら晴れ模様。気温は平年並み、ぼくはTシャツにパーカー を重ねていた。ジーンズにスニーカー、無難な服装だ。教室内は少し暑いけれど。
今夜風呂に入るときニキビを潰してしまおうか。小さな小さなニキビからは意外なほど大量の膿が出てくる。だからこそ、先程の頭蓋骨云々という発想が出てくるのだ。あれだけ膿を持ったニキビが発生すれば、そりゃあ 頭蓋骨も突き抜けるってモンですわ。いや、そんな現象 ありえねーってことくらいはわかってますけども。
それにつけてもニキビ痛い。なんだか体に力が入らないし思考も支離滅裂なので、もしかせんでも生理近いのだろうか。そもそもぼくとは本来『わたし』であり何故 ぼくはぼくをぼくと呼ぶのか、それはぼくがぼくをわたしとあまり認識してないからである。だからと言ってぼくはわたしなどではないという主張を持つ訳でもなく、只単にぼくはわたし以外の何者でもないと言う常識的且つよくわからない且つ素直に受け入れられないぼくの性分が、ぼくはぼくをわたしと呼ばせずにぼくと呼ばせるのである。実に愉快な性分である。勿論人前でわたしを ぼくなどと呼ぶヘマはしない。一度でもやってみろ、その瞬間から小市民という希望の欠片は涙と淡い微笑みを 浮かべさようならと白いハンカチーフを降りながら遥か 彼方のお花畑までゆっくりと驚くべき速さでフェイドアウトしてしまうのだ。いや別に小市民を希望の欠片なんて思ってないし。最近読んでる小説の影響だ。しかしアレだ、小市民を目指すなんて傲慢だろう。それではまるで自分が小市民ではないようじゃないか。なんとおこが ましい。若さとはこれ即ち傲慢であるということなのだろうか。ならばぼくは相当若い。来年の今頃は人生初の 会社勤めでへろへろに疲れているだろうに。何せぼくは 本来ならばわたしであるとわかっていながらわたしをぼくと呼んでいるのだから。女であることを否定しきれていないにも関わらず。嗚呼、人生って難しい。どうやったら世の中楽に渡れますか。それにはこの拗れ捻れ曲が りくねった道もとい性格を矯正せねばなるまいか。それは耐えきれそうにもない。そんな性格だ。
とにかくニキビが痛いのが悪い。ぼくはそう結論付け、いい加減貯まってきた黒板の文字をルーズリーフに書き写し始めた。まずい、先生の補足をメモしてない。それもこれもあれも、全部ニキビのせいだ。ってゆーかそれもこれもあれもって一体どれ。