Thin Ice
「気が付いたか?」
見知らぬ男の声で眼が覚める。全身が鉛のように重く、右足が疼く。
「ここは?」やはり見知らぬ部屋どうやらベッドに寝かされているみたい。
「俺の部屋、起き上がれるか?今水を持って来てやる。」
夕べは珍しく飲み過ぎて、途中から記憶が無い。
「夕べの記憶が無いんだろ?お前チンピラに絡まれて路地に転がってた。」
「アンタは?」
「ただの通りすがりだ。」
男はその辺りのモデルよりも整ったスタイルと顔で少しハスキーな色っぽい声
そして何もかも包み込みそうな深い茶色の瞳。
「何で?助けた。義理ねえだろ?」少しイラついて問いかける。
すると急に男が顔を近づけて来た。
「おお、夕べは暗くて良く見えなかったけど、お前綺麗な顔してるな。」
「何だよ。急に」
綺麗だと言われる事にも慣れているし、男に言い寄られる事も初めてではない。
だけど、顔を近付けられただけで体が硬直したのは初めてだ。
「義理か、そうだ。お前、家でバイトしない?」
「はあ?話がわからない。」
「俺、進藤省吾。ホストクラブのオーナーやってるだけど今ホストが足りないんだ。
バイトで良いから来いよ。」整った男前の顔をクシャっと崩して笑う。
「俺が?ホスト?」
「お前モテルんだろ?夕べも女絡みだったみたいだし。きっと稼げるぞ。」
ホストなんて考えもしなかったけど、子どもみたいに嬉しそうに笑う省吾に
何故だか興味を持った。
黙って座っていたら、他人を寄せ付けない位に整った容姿をしながら、Tシャツに
スエットを履いただけで髪も洗いざらしの無防備な格好で、初対面の俺に笑いかける。
『面白い奴』これが省吾に対する第一印象だった。