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ウイッキーさん

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昔、「ズームイン朝!」と言う朝の情報番組がありました。
 その中の一つのコーナーでスリランカ人のウイッキーさんと言う人がいて、街頭でいきなり通行人に向かって英語で話しかけ、キャッチした通行人に対し、無理矢理にでも英語で答えさせる。もしくは、英語が話せずアタフタする通行人に対して、英語のレクチャーをし、リピートさせると言う、チョット怖いコーナーがありました。
ウイッキーさんは英語を上手に話せない通行人をもてあそんで、恥をかかせた後は、自著を強引に手渡し、もっと英語を勉強するように促して、通行人をリリース。番組の司会者へバトンを引き継ぎ、今日の英会話のポイントを説明し、満面の笑みで「HAVE A NICE DAY!」と言い放ちカメラに向かって手を振ってコーナーを終えるというものでした。
しかし、ウイッキーさんは相当、面が割れており、東京都心のビジネス街の会社員達はウイッキーさんを補足すると一斉にしかも露骨に早足でウイッキーさんを避けるのでした。 それはもう、鮫から逃げ惑う鰯の群れのように、人の群れがまるで地割れのように真っ二つに裂けるのでした。
今も鮮明に脳裏に浮かぶウイッキーさんのあの姿、小柄な体躯、クセが強く白髪が混じる髪の毛、浅黒い肌に、インド人らしい大きな瞳と高い鼻。体にジャストフィットした仕立ての良いスーツ。手元にはキャッチした通行人に手渡す自著。
少し前かがみになり、加速度をつけ通行人の群れに向かっていくウイッキーさん。
小学生の頃、学校のない夏休みによくウイッキーさんをTVで見たような気がします。
ウイッキーさんへ。
決して、アベノ界隈には現れないでください。僕は逃げ惑うのに必死になってしまい、会社の出勤時間に間に合わなくなってしまいます。「HAVE A NICE DAY!」どころか、「HAVE A BAD DAY!」になってしまいます。
ウイッキーさんへ。
僕の本棚にはあなたの著書をしまう場所は見当たりません。
ウイッキーさんへ。
あなたは決して、転倒した通行人をキャッチするような事はありませんでした。
ウイッキーさんへ。
夏休みにTVの向こうで見ていた少年は今、あの頃のあなたが追いかけていた通行人と同じような会社員になりました。
ウイッキーさんへ。
僕もあなたの姿を補足すると、早足に逃げ惑うのでしょう。
そして、少年の時代の僕がTV越しに逃げ惑う僕を見ているのでしょう。
季節は回る。
また、夏が来ました。
                (了)
作品名:ウイッキーさん 作家名:悦楽