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残り香が消えなくて

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「好きな人が出来たの」
たった一言で私達の恋は終わりを迎えた。

あなたから「好き」って言ってくれたのに。
さよならまで、あなたからなんて、ちょっとずるい気がした。

女どうしでなにを言ってるの? って最初は思ったけど、
気付くと私の方があなたに夢中だった。

髪の長さも、食べ物も、身に着けるアクセサリーでさえ、
すべてがあなたの好みへ変わっていった。

放課後の教室で初めてキスした時に香った、あなたの甘い香り。
次の日にあなたがくれたのは、その香りをいっぱいに詰め込んだ可愛い小瓶。

「お揃いって初めてだね」
 照れながら言うあなたの笑顔を見た時に、私はあなたが好きなんだと初めて実感出来た。

もちろん、その香水は私の愛用になった。

誰もいない放課後の教室でキスするたびに香る甘い匂い。
それが私のものなのか、それともあなたのものなのか、
正直わからなかったし、そんなことはどうでもよかった。

この香りを嗅いだ時が一番あなたのことを好きだと思える。
その事実が、私は嬉しくて、照れくさくて、そして……好きだった。

おしゃべりだっていっぱいしたし、デートだってたくさんした。
もちろん、キスだって何度も……

それでもやっぱり、あなたから香るその匂いが、
あなたのことをどんどん好きにさせていった。


だから、私は一番に小瓶を捨てた。

別れを告げられ、真っ先に向かったのは、デートでよく来た川べりの公園。
北から3番目のベンチが私達の指定席。

思い出の場所で、この小瓶を捨ててやるのがせめてもの復讐。
我ながら情けないと思った。

ベンチに座り、思いっきり力を込めて小瓶を地面に叩きつける。
パリンと音をたて、砕け散る小瓶。
まるで終わった私達の恋のようだ。

同時にあの甘い香りが、私の周りを包み込む。
恋の終わりをこの目で見てもなお、
その匂いは、あなたのことをどんどんと好きにさせていく。

自然と涙が溢れ出る。
私の体に染みついた、あなたを好きになっていくその甘い香りを洗い流すかのように。


香りと共に好きになり、香りが消えれば冷めていく……
そんな恋をした。



机の引き出しから懐かしい化粧ポーチが出て来た。
高校生の時に愛用していたものだ。
当時を懐かしみ、何の気なしにチャックを開ける。

微かに香る甘い匂い。
恋は終わったのに、あなたのことを好きになっていくその甘い香り。
ほんとうにあなたは、ちょっとずるい気がした。
作品名:残り香が消えなくて 作家名:毛利 耶麻