魔女と魔女狩りⅢ
―5章―
私は今、昨日居た酒場の前に立っている
昨日マスターの前であんなことをしてしまったあとだから少々入りにくい
そうやって酒場の前に立っていると小さな看板が目に入った
“ERROR”
『そういえば、私この酒場の名前いままで知らなかった…』
この酒場になんどもきているのに
私はこの酒場の名前を知らなかったことを今更気付いた
そんなことを考えていると
カランカラン
乾いたベル音が鳴った
「お、レイラ」
扉を開いたのはほかでもないマスターだったのだ
私は小さな声であ…、と呟く
マスターは私が羽織っているあのボロボロのマントをみて
全てを察したように笑い
「レイラ、今日は俺がおごってやるからとりあえず店入れ」と
無骨な手で扉を抑えたまま私を中にいれるように誘導した
マスターは酒場の扉にcloseの立札を立ててから
私をカウンター席に座らせた
「マスター…、昨日は騒がして…悪かっ……
……ごめん…な、さい…」
そう言うとマスターは私の頭に無骨な手を載せて
「んなこといいっての
ってかいい加減“マスター”って呼ぶのやめろ」
そう浅黒い顔に苦笑いを浮かべていった
彼、マスターことルイは茶化すように言ったが
あぁ、と思い出したように続けた
「あぁ…
でも、ヴィクターには謝っておけよ
…あいつ、お前が店出てからめちゃめちゃ傷ついた顔してたからよ」
「…は、い」
私は彼に敬語なのは年上に見えるからでも、
酒場のマスターだからでもない
でも浅黒い肌に無精ひげを生やしている筋肉質な体の彼は
どこからどうみても30代に見える
…実際は28だそうだが
まぁ、そんなことはどうでもよくて彼に私たち(ヴィクターも)が敬語なのは
私とヴィクターが二人で傭兵をやるまえに加入していた、
ギルドのマスターだからだ。
私たちは真っ暗な闇の中から救い出して、拾ってくれた恩人だからだ