魔女と魔女狩り Ⅰ
―2章―
私はずっと沈黙したままだった。
長い間、ずっと。
あまりにも長く、重いこの雰囲気に彼は耐え切れなかったのだろう
「…どうしても嫌なら、いいけどよ
どうせなら、お前とやりたかったんだよ。
昔みたいに一緒に戦場を、駆け回りたかったんだ」
彼はグラスに少し残った酒をグイっと仰いだ
「…私はっ…
…っ、
…お前は魔女をどうやって見るけるか、
どうやって殺すのかわかって言っているのか…?」
私の口はやっと開いた。
けれど自分で言いながら昔のことを思い出した
小さな頃、両親を、きょうだいを目の前で殺されたのを
彼らが最後に発した、悲痛な、断末魔を
私だけが隠れて助かった、自分への不快感を、劣等感を…
「知っている」
彼はあっさりといった。
寂しかった、淋しかった
ヴィクターはわかっていて、それをやろうと、しているんだ。
このままいたら彼を突き飛ばしたり、殴ったり、蹴ったり
…あげく、殺してしまうような気さえしてガタンと席をたった
立って、彼を見下したような目で見てしまった
「………お前と話すことなんてもう、ない
金輪際、お前と会う気も、ない…!!」
私はそこに自分が飲んだぶんの金を乱暴に置いて店を出た
さっききた道をずしずしと歩いていく
『あぁ、マント。おいてきてしまったな』
ふっと私は思い出したけれど、戻る気はしなかったし
戻れる訳もなかった
あのマントは、彼と二人で傭兵をやっていたこと、彼がかってくれた
ものだったのだ。
けれどいまはもう、……どうでもいい。
さっききた道を歩いている私の歩調はだんだん力がなくなっていき
さっきとは違う、人一人座ったらもう誰も通れないくらいの道に入って
へなへなと座り込んでしまった
「……っ」
膝を折って、首を疼くめて、私は座る。
ぱたぱたぱた。
遠くから足音が聞こえる
ぱたぱたぱた…
足音はだんだん、ちかくなる
ぱたぱた、ぱた………
「レイラ…?」
壁と壁に挟まるように座っている私に対し彼は手を壁について
私の逃げ道を塞ぐようにして、立った
………話すつもりなどないのだ
魔女狩りをしようとする彼と、話すつもりも、話すこともないのだ
「レイラ…。」
優しく私の名前を呼ぶ彼。
私の名前をそんなふうに呼ばないでくれ。
「レイラ…
…泣くなよ。レイラ」
泣いてなんか、いないのだ。
だって私の涙はとうの昔に枯れたのだから
「…レイラ」
彼は私にマントをフッとかぶせてから優しく抱き上げた
「…触るな下衆、政府の犬」
私は、話してしまった
「レイラ…
悪かった、」
彼はつぶやくようにそう、呟いた
「…悪かった」
私は無理やり羽織らされたマントのフードを顔にかぶせて、顔を見ないように
見せないようにした。