無題。
キャンパスの大学ノートを広げる。クソつまらない数式を板書するためでなく、少し前の席でうつらうつらと舟をこいでいる友人のスケッチをとるために。
手になじむ位置にシャープペンを持ち直して、芯を出す。
被写体の友人は、賑やかすぎる性格が災いしてわかりにくいが、意外と見た目は悪くない。とくに、額がいい。
ぼんやりと形を捉えながら、罫線の上にゆったりとまろやかなカーブを描いていく。
ゆるく丸みのある額から、少し深く入って、鼻筋。
小ぶりな鼻先は少し上を向いていて、男らしいというよりは幼い印象を強く受けた。
スケッチは、ここまでで終わった。
これ以上描いても、午睡を貪る奴の顔は頬杖をついているせいで頬肉が持ち上がって醜いし、なにより数学教師が革靴を鳴らした。居眠りを見つけて腹を立てたときの合図だから、そろそろ集中するポーズをとらないと見つかったときに俺もマズい。
硬い革靴の音が机の間をまっすぐに進む音を聞きながら、ノートの上に消しゴムを力任せに擦り付けた。