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風のごとく駆け抜けて

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スタートラインで、若宮紘子は脚をパンパンと叩いていた。

身長は私よりもちょっと高いくらいだろう。
何より眼を引くのが、髪型だ。

ベリーショートと言って良いくらい短く、耳もすべて出ていた。
それでいて、生まれつきなのだろうか、少しくせ毛気味な感じで、それが全体的にふんわりとした柔らかい髪型を演出している。

最終組はスタートと同時にハイペースでレースが進む。

私の1000m通過タイムが3分3秒。
それでも先頭から6番目と言う順位だ。

流れに乗って飛び出したものの、ちょっとオーバーペースで突っ込み過ぎた気がする。

ただ、私の真後ろに麻子がぴったりと付いて来ているのだ。

後ろを振り返って確認したわけではないが、いつも一緒に練習していれば、足音のリズムと呼吸音ではっきりと分かる。

スタートして300mで後ろに麻子が付いたのが分かった。
そこからずっとぴったりとくっ付いて来ていた。

麻子に負けたくないと言う気持ちはもちろんある。
でも、今の私はそれ以上に私の2人前を走る若宮紘子に負けたくないと言う気持ちの方が強かった。

去年は全く負ける気のしなかった後輩に、今は必死で付いて行くと言うのが、何とも複雑な気分ではあるが、本当に若宮紘子は強かった。

結局、終わってみれば、私と若宮紘子は6秒差。
距離にして約30mあった。

ダウンも終わり、スタンドに戻ると永野先生がいなかった。

「なんか、誰かと会うからちょっと席を外すって言ってたわよ。後、桂水高校の分だけで良いから、正式記録を書いて来てだって」

由香里さんから、永野先生の伝言を聞き、私は晴美と一緒に玄関前のアリーナ―へ行く。

「私が9分25秒11。麻子が34秒45、葵先輩が38秒09、久美子先輩が49秒33、紗耶が50秒82」

 アリーナに掲示されている正式記録のうち、桂水高校の分を私は読み上げる。読み上げて帰ろうとした時に、若宮紘子に出くわした。

「あ、あの澤野さんですよね」
緊張しているのか、若宮紘子の声は少し上ずっていた。

「あら、お疲れ。随分と強くなってるわね。完敗だったわ」
「あ、ありがとうございます。あの、高校に入ってから、また一緒に走れるのを楽しみにしています」
「そうね……。次は負けないように頑張るわ。それに私があなたに勝てないと、都大路は不可能そうだしね」
その一言に若宮紘子は不思議そうな顔をして首を傾げる。

「あなた、進学先ってもう決まってるんでしょ?」
「はい。つい最近決めましたし」
若宮紘子は笑顔で返事を返してくる。

「もちろん、城華大付属よね」と言う言葉が喉まで出かかっていたが、無理やり飲み込んだ。

今更聞くまでも無いと思ったからだ。
「一緒に走れるのを楽しみにしています」と言われた時点で答えは出ている。

つまり、来年また勝負しましょうと言うことだ。
えいりんのように県外に行くならそんなことは言わないだろう。

まぁ、大きな目標が出来たのは良しとしよう。

若宮紘子に別れを言って、私と晴美はみんなの所に戻る。

「聖香は罪作りな女かな」
戻る途中で晴美が笑いながら、私に言って来るが、さっぱり意味が分からなかった。

詳しい説明を求めても、晴美は笑ってごまかすだけだった。