風のごとく駆け抜けて
紗耶は桂水市の隣にある桜庭市と言うところから毎日電車で通っていた。
桜庭駅と桂水駅は2駅分離れており、桂水高校から桂水駅まで徒歩だと30分近くかかるため、電車を利用して通学する人は、駅から高校まで自転車を利用している人が大多数だ。
「そう言えば、同じ桂水市に住んでても、駅の方は久々」
校門前で、少し自転車置き場が離れている先輩方を待っている時に麻子がつぶやいた。言われて麻子だけが家の方向が別だと言うことに気付く。
麻子は高校の正門を出て西側に家がある。
自転車で大体40分くらいらしい。
葵先輩は高校から南側、駅のすぐ近く。
久美子先輩も駅側に行くものの、途中で大きな道路を東に曲がって行く。
私と晴美は久美子先輩と同じコースを辿りながら、久美子先輩の住むアパートを通り過ぎ、また南へと進路を変え、線路をまたぎ、駅より南側まで行かなければならない。
ちなみに、私の家から晴美の家までが1、5キロ近く離れている。
自転車通学メンバーの中では晴美が一番遠い所に住んでいた。
3分も待たないうちに先輩方がやって来る。
「葵さんどうします? とりあえず駅に向かって行ってみますか?」
麻子の一言に葵先輩が思案し始める。
「葵。早くしないと見失う」
思案する葵先輩に久美子先輩が声をかけ、それが合図となり、全員が自転車を漕ぎ始める。
徒歩だと駅前の商店街やショッピングセンターに立ち寄るかも、と言う不安もあったが、紗耶はまっすぐに駅へと向かっていたらしく、あっさりと見つかった。
紗耶になんて聞いてみるかを晴美と考えていると、葵先輩がとんでも無いことを思いつく。
「このまま声をかけずに尾行してみましょうか」
葵先輩の意見にみんな驚きを隠せない。
「葵の悪い癖がでた。好奇心旺盛すぎ」
久美子先輩が半ばあきらめ気味にため息を漏らす。
自転車で一定の距離を保ちながら、紗耶を尾行する私達。
これを尾行というのかと言われるとかなり微妙なところではある。
はたから見ると、放課後に喋りながらだらだらと帰宅している高校生にしか見えなくもない。
でも、考えようによっては、テレビでよく見るような電柱の陰に隠れながら尾行をするより、よっぽど良いかもしれない。
その時、先を歩く紗耶が携帯をカバンから取り出す。
「そうだ。紗耶の携帯に電話してみようか。どんな反応をするのか気にならない?」
麻子の顔は、まるでいたずらをする子供のような笑顔だった。
「まぁ、多少は紗耶と距離もあるし大丈夫とは思うけど?」
葵先輩が喋り終わると同時に、麻子は電話をかけていた。
ここで私達は信じられない光景を目の当たりにする。
確かに麻子が電話をかけているのだが、紗耶は普通に携帯を操作し続けていた。
「操作中は繋がらないんじゃない?」
「いえ、葵さん。前に紗耶が、操作中にかかって来た電話を取ったの見たことあります。しかも呼び出し音は鳴ってるから、かかってるはずなんですが……」
これにはみな首を傾げるしかなかった。
麻子の携帯の履歴をみても確かに紗耶に発信している。
考えても答えはでないし、そうこうしているうちに、紗耶は駅に着いてしまった。
作品名:風のごとく駆け抜けて 作家名:毛利 耶麻