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風のごとく駆け抜けて

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「それではみなさん。合宿お疲れ様でした。この合宿の成果が、駅伝で発揮されることを楽しみにしています! 乾杯」
由香里さんの掛け声で打ち上げが始まる。

「こうやって打ち上げが出来るのも、今年で最後かな」
「そうね。あたし達も今年で3年生だし。来年の今頃は、きっと大学生活を楽しんでいるでしょうしね」
晴美と麻子がバーベキューを食べながらしみじみと語っていた。
そうか。終わる寂しさだけを考えていたが、来年は新しい生活も待っているのだ。

そう考えると不思議と元気が出て来る。

「いや、お前ら何か勘違いしてないか。別に最後にしなくても良いんだぞ? 夏休みの最後の一週間、もう一回合宿やるか?」
永野先生の問いかけに、私達全員が必死で首を振る。

バーべキューを食べた後、私はのんびりと海を見ていた。
海岸ではアリスと麻子、紗耶が花火で遊んでいる。

と、隣に晴美が座って来た。

「何を考えてるのかな。聖香?」
晴美が私の顔を覗き込んでくる。

「この駅伝部のメンバーに出会えてよかったなって」
「なにか変な物でも食べたのかな」

「別に食べてないからね。今年で最後だもん。色々考えたりするよ」
「まぁ、それはそうかな。私は一ヶ月後くらいには分かるんだけどね。ほら、大型連休の時に見せた絵があるでしょ。高校駅伝のイメージポスターコンクールの結果が出るのが一ヶ月後かな」

晴美は結果が待ち遠しいけど、知るのも怖いとつぶやく。

「そう言うのってドキドキするよね。駅伝でもさ、自分が走り終わってタスキを渡した後は仲間を信じて待つだけだけど、すごく緊張するもん」
「じゃぁ、今年はそのドキドキはないかな」
「え? どう言うことよ」

晴美は周りを警戒するように辺りを見回す。
誰もいないことを確認しながらも、私に耳打ちするようにそっと語り掛ける。

「誰にも内緒かな。合宿中に永野先生が言ってた。今年は何があってもアンカーは澤野だなって」
思わず私は晴美から顔を離してマジマジとその顔を見る。

「ほら、城華大付属に市島さんが転入して来たでしょ。永野先生はそれを随分と気にしてるみたいだったかな。城華大付属のメンバーから考えて、市島さんはきっとアンカーだし、それに対抗できるのは桂水の中では聖香しかいないって。永野先生、随分と聖香を信用してたかな」

まるで自分が褒められたかのように、晴美は嬉しそうに話をする。

「ねぇ聖香。県駅伝の時にどこで応援してほしい? 今年は最後だから、聖香の応援に回れるように、永野先生に頼んでみようと思ってるんだけど」
「う〜ん。ラスト1キロだね。ほら、赤い大きな橋を渡り終わった直後。多分、あの辺が勝負の別れ目になりそうな気がするから」
私が言うと晴美も笑顔で頷く。

「わかった。じゃぁ、そこで聖香にしっかりと声が届くように大声で応援する。あ、私の声が聞こえたら合図してね。そうね……左手でガッツポーズってことで良いかな」
「なにそれ。恥ずかしいんだけど。先頭で走ってたらテレビにも映るんだよ」

「そこが狙いかな。きっと何年経っても良い思い出になると思うよ」
晴美はクスッと笑うと、立ち上がって麻子達の方へ歩いて行ってしまった。

1人残され私は考える。
来年の今頃にはきっと大学生として新しい生活を送っているはずだ。

それは、これからなにがあってもやって来るであろう未来。
具体的に言うなら、今年都大路に出場しても、しなくてもやって来る未来。

でも同じ未来なら、楽しい思い出が多い方が良いと思う。

この仲間で作る最高に楽しい思い出。
もちろんそれは、都大路出場だろう。

それに今、晴美に言われてもうひとつだけ思ったことがあった。

もしも都大路に出場し、私がアンカーを走れたなら、何年も前に永野先生が走ったコースを自分の脚で走れるのだ。

それはなんだかとっても素敵なことのような気がしていた。