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風のごとく駆け抜けて

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みんなが顔を見合わせる。

いつまでもここにいるわけにもいかず、目と目が合うと、誰となく頷く。

恐る恐る部室へと歩いて行く。
部室前にたどり着き辺りを見回しても、人の気配は無い。

これはやはり……。

「なにをやってんだ。お前ら」
幽霊のことを考えていた時にいきなり声をかけられ、思わず「うわっ」と変な声を出してしまう。

「どうしたんだ? いったい?」
心配そうな声を出す永野先生を見た瞬間、心臓が止まりそうになった。

「で……出た」
「いや。いるし」
「うそぉ」
麻子と紘子、紗耶が驚きの声を上げる。

永野先生の斜め後ろに、先ほどの金髪少女が立っていたのだ。

「ほんとうに大丈夫かお前ら? まあ、とりあえずこちらの用件を言うが。えっと……。まずは自己紹介を」
永野先生が、その金髪少女を見る。

よく見ると朋恵と紘子が話していた通り、目は透き通るような綺麗な青色をしていた。

「父の仕事の都合で、明日から1年4組に転校して来ます。ブレロ・アリスと言います。駅伝部に入部希望です。前にいた高校は陸上部が無かったのですが、体育の時間に3000mで9分50秒を出して、爆走女と呼ばれてました。あ、ちなみにブレロが姓でアリスが名前です。よろしくお願いします」
なんとも流暢な日本語で少女があいさつをする。

「日本語、綺麗なのね」
葵先輩の一言に、ブレロ・アリスと名乗る目の前の少女が笑顔になる。

「はい。アリスは生まれも育ちも日本のバリバリ日本人ですから」
正直、言っている意味が分からなかった。

「あはは。だいたいアリスに初めて会った人は、みんなそんな顔するんですよね。えっと、順を追って説明します。私の父はイタリア生まれのイタリア育ち、生粋のイタリア人でした。父は幼いころから日本文化に強いあこがれを持っており、19歳の時に日本へ留学。それから仕事も日本で見つけ、ついには日本に帰化してしまいました。つまりこの時点で国籍上、父はイタリア人から日本人になったのです。でも生まれてからずっと使っていた名前にも愛着があり、名前はカタカナに直してそのまま使うことにしたそうです。ここまでは理解できます?」

聞かれて私達は何とか頷く。
正直、どうにかギリギリ理解出来ている程度だが。

それでも、みんなが頷くと彼女は話を再開する。

「それからしばらくして、父は同じように日本が大好きなイタリア人の女性とお付き合いを始め、最終的には結婚。母も数年のちに帰化して日本国籍に。その後にアリスが生まれました。つまり、アリスは見た目がこのように金髪碧眼ですが、生まれも育ちも日本。国籍上も日本人です。ちなみにアリスと言う名前は、父と母が『世界中で通用するような名前を』と言うことで付けたそうです。あと、本当のことを言うと、イタリアには2回しか行ったことないです。ぶっちゃけ、イタリア語も読むのと聞くのはそれなりに出来るのですが、書くのと話すのはかなり怪しいです」

彼女の説明が終わると、辺りが静がになる。
私自身、何を言っていいのか分からなかった。

しばらく続いた沈黙を破ったのは麻子だった。

こう言う時、真っ先に動けるのは麻子の強みだと思う。
私が高校に入学した際も、この行動力に助けられた。

「正直、あなたの説明はほとんど理解出来なかったけど……。あなたが駅伝部に入りたいってことは分かったわ。あたしは2年の湯川麻子。一応この部のキャプテンよ。これからもよろしくアリス。一緒に頑張りましょう」

最初の一言が無ければ、かなり格好良かったんだけどな。
麻子に続き、みんなが順番に自己紹介をしていく。

こうして、桂水高校駅伝部に新しい仲間が加わったのだった。