風のごとく駆け抜けて
修学旅行1日目。
桂水市からバスで大分を経由しながら阿蘇山へと向かう。
「で、どうなの? 友達やお姉さんとは連絡ついた」
後ろの席に座っている麻子が私のシートに乗りかかるようにして聞いてくる。
「それが姉の方は実験と卒研に追われてて、とてもそれどころじゃないって。友達はなんかすごいのりのりだった。土曜日は部活も休みだし、朝から晩まで大丈夫とか言ってた」
それを聞いて麻子は小さくガッツポーズをする。
いったい何がそんなに楽しみなのだろうか。
気が付けばバスから見える景色が変わってくる。
バスガイドさんによるとやまなみハイウェイと言う道に入ったらしい。
目の前に広がる草原と、遠くに連なる山々。
桂水市では絶対に見れない光景だ。
バスガイドさんが、「時々牛が草を食べてる姿を見かけることが出来る」と説明するとバスに乗っている全員が驚きの声を上げた。
窓際に座っている晴美が、窓を少しだけ開けて写真を撮り始める。
こう言うところは、さすが美術部だなと感心してしまう。
私も席を変わってもらい、同じように撮る。
「なんとも雄大な景色だこと。こんな景色を見ながらジョグが出来たら最高ね」
景色を見ながら漏らす麻子の感想に、私と紗耶は思わず笑ってしまう。
「ちょっと笑うことは無いでしょ」
「いやぁ、あさちゃんもすっかりランナーになって、わたしは嬉しいんだよぉ」
紗耶のツッコミに麻子は顔を真っ赤にしていた。
やまなみハイウェイをしばらく走り、大観峰というものすごく見晴らしの良い山へ到着する。
バスガイドさんの案内で、景色が良く見えると言う展望台へと歩いて行く。
「左手から根子岳、高岳、中岳、烏帽子岳、杵島岳と呼ばれており、これらを阿蘇五岳と言います。またこれらが仏様が寝ている姿に見えることでも有名です」
ガイドさんの説明に麻子は顔をしかめる。
「ねぇ、どこがそう見えるの? 全然見えないんだけど」
紗耶が一生懸命に指を指しながら説明するが、麻子は理解できないようだ。
晴美がデジカメで景色を取り、その画面で説明するとやっと納得をする。
それにしてもここから見える景色の雄大なこと。
もしも私が姉のいる大学に入学することが出来たら、ぜひともまた来たいと思った。
バスは大観峰を後にし、阿蘇神社へと向かう。
ここでも麻子のランナーっぷりが発揮される。
「駅伝で都大路に行けますように。駅伝で都大路に行けますように。駅伝で都大路にいけますように」
境内にある願かけ石の前で麻子が祈ったのは駅伝での勝利だ。
「その前に麻子は彼氏が出来るように祈った方がいいかな」
晴美が笑いながら言うと麻子が晴美を睨む。
「だから前にも言ったでしょ。あたしはそんな暇があったら走ってたいの」
そう言えば、紘子の部屋に遊びに行った時も麻子は同じようなことを言っていた。まぁ、その点だけは私もおおむね同意だが。
作品名:風のごとく駆け抜けて 作家名:毛利 耶麻