風のごとく駆け抜けて
Let's 修学旅行♪
駅伝の一週間後、葵先輩は防衛大の試験を受験する。
今回が1次試験でこれに受かると12月にまた2次試験があるそうだ。
葵先輩が試験を受けた次の週。
私達2年生にとっては待ちに待ったイベント、修学旅行がやって来た。
桂水高校は修学旅行の行先を6つのコースから選べるようになっている。
北から順に北海道、東京、信州、京都、熊本、沖縄だ。
なぜこのようなラインナップになっているかは全くの謎。
ちなみに昨年、葵先輩と久美子先輩は東京を選んだ。
今にして思えば、この修学旅行が葵先輩の人生にメイド服をもたらしたのだ。
本人曰く、休みの日に家事をする時はいつも着ていると言う。
さすがに家族に反対されないか心配すると、どうやら家族全員が葵先輩のメイド服を認めているらしい。
「お小遣いを貯めてこの前3着目を買ったわ」
嬉しそうに話す先輩を見ると、それ以上は何も言えなかった。
ちなみに修学旅行のコース選びは、学科やクラスの枠に囚われない。
せっかくだから駅伝部4人で同じ所へ行こうと言う話になった。
いくつかある中で、真っ先に却下されたのは京都だった。
「京都へは、駅伝部として都大路出場とともに行きたいんだよぉ」
紗耶の提案に誰しもが賛成する。
だったら東京はどうだろう? と言う意見が出る。
「お土産にメイド服を買って来てって言われそうかな」
苦笑いする晴美の意見に誰もが納得した。
「あたし絶対に飛行機には乗りたくない!」
麻子の一言で北海道と沖縄が候補から消える。
各人の意見を尊重すると、候補はすでに2択になっていた。
「熊本は姉とか友達がいて、昨年も今年も大型連休の時に遊びに行ったんだよね」
だから候補から外してね。
と言うつもりで言ったのだが……。
「てことは、熊本に詳しいってことよね」
「自由行動の日は聖香に任せれば、バッチリかな」
「せいちゃんのお姉さんと友達を見てみたいなぁ」
しまった。そう言う解釈になるのか。
「と言うか。私の姉と友達に会いに行く修学旅行ってどんな旅行よ。てか、紗耶。私の友達って市島瑛理だよ?」
そんな私の言い訳もまったく通じず、私達は熊本へと行くことが決まった。
ちなみに葵先輩に行先を言うと、
「癒しの温泉コースか。あなた達らしいわね」
と返って来た。
葵先輩の説明によると、修学旅行のコースに熊本が入っているのは、5年くらい前に熊本の黒川温泉好きな年輩先生がごり押しで入れたのが始まりらしい。
修学旅行で温泉はあまり人気がないのだろうか。
と言うよりはほとんどが東京、沖縄、北海道を選んだせいもあるだろう。
なんと熊本に行く生徒は私達4人をいれても19人しかいなかった。
作品名:風のごとく駆け抜けて 作家名:毛利 耶麻