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風のごとく駆け抜けて

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「断る時にそんなことしたらダメですし。まったく女泣かせですね聖香さんは。そもそも自分は付き合ってくださいなんて言わないって宣言しましたし」

顔を真っ赤にして紘子があたふたする。
この時、私はどんな顔をしていたのだろう。
私の顔をみて紘子がため息をつく。

「聖香さん。そんな顔しないでください。自分から言い出しておいてなんですが、この話はここで終わりです。明日からまた練習頑張って走りましょうね。都大路行きたいですし」
「そうね。頑張って練習しないとね。それと、最後にこれだけは言わせて……。紘子、ありがとう。それとごめん。あと……これからも私達は大切な駅伝部の仲間だから」

私が言うと紘子がにっこりと笑う。

「もちろんですし。やっぱり自分は桂水に来て良かったです。あ、朋恵を待たせてるんで先に帰りますね」
紘子はそれだけ言うと、扉に向かって歩き出し、振り返りもせずに出て行った。

まるで、しっかりと前へ進んでいけることを体現するかのように。

「たまに聖香って大胆かな」
後ろから晴美の声が聞こえた。
振り返りもせずに私は答える。

「いや、紘子の泣き顔を見たらなんだかね。その原因は私だし。でも自分でもなんであんなことしたんだろうって感じ」
喋ると同時に体中の熱が一気に放出した気がした。
思考が冷静になって行くのが分かる。

そこで始めて重要なことに気付いた。

なぜ、晴美が後ろにいるのか。
振り返ると晴美は不思議そうに首を傾げる。

「晴美、あなたどこまで知ってるの」
「その前に聖香。考えて欲しいかな。美術室に来たら誰もいない。そこに都合よく紘子ちゃんがやって来る。そして今も誰も来ない。こんな偶然ってあると思うかな」

「つまり、晴美はすべて知ってるわけね。てか今の見てたわけ? だいたい、晴美が私の後ろにいるってことは、美術準備室にいたってことでしょ?」
「まぁ、その辺は気にしたら負けかな。実は聖香が大学の合宿に行ってる時に紘子ちゃんに相談されたんだよ」
晴美は購買で買って来たのだろう、ジュースを私に手渡し、展示のために隅っこに寄せられている机の上に腰を下ろす。

私も同じように晴美の隣に座る。

「紘子ちゃんが聖香に気持ちを伝えたいって言うから、協力してあげたかな」
「じゃぁ、晴美はちょっと前から紘子のこと知ってたんだ」
私の問いに晴美は首を振る。

「最初から知ってたかな」
「紘子が入学して来た時からってこと?」
「ううん。去年のナイター陸上で記録を書いている時に、紘子ちゃんが聖香と話ていた時からかな。その時、この子聖香のことが好きなんだろうし、きっと桂水高校に来るんだろうなって思ってた。そう言えば紘子ちゃんが言うには、紗耶の双子の姉、亜耶も気づいたみたいかな」

にわかには晴美の言うことが信じられなかった。

ただ、思い出そうにもナイターの時に紘子と話したことは覚えていても、会話の中身までは思い出せなかった。

「さて、そろそろ帰ろうかな。明日もメイド喫茶は大忙しだよ」
その一言に私は苦笑いするしかなった。