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降りそそぐ歌の欠片

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夢の島には女の子が住んでいます。何時何処から来たのか誰にも分かりません。
彼女を見かけたある人の話では、4才ぐらいの女の子だったといいます。
けれども別の人は12才ぐらいだと言い張ります。共通するのは少女だったということ。
昼間、彼女は歌の欠片を集めます。それは夜になると、空の向こう側から静かに降ってきます。彼女はそれを焚火の燃料にするのです。
歌の欠片はよく燃えます。燃え尽きるときに、ぽんぽんと煙があがります。
煙は内側からオーロラのような光を放ちながら、空へと昇っていきます。
それを眺めていると、光が彼女の胸のなかに乗り移り、すこしだけ胸のところが熱くなります。
たまに煙のなかに指をいれ掬い取るまねをしてみます。すると煙がクリームのように指先にくっつきます。
舐めるとほんのりと甘くて、こんどはお腹の奥が熱くなります。 
そのうち少女はその場で丸くなり、朝が来るまでそうしています。
ですが彼女は眠りません。
太陽が昇ると、彼女はまた歌の欠片を集めるために、元気に起き上がります。
ある日のことです。その日は欠片が降ってきませんでした。
一日中探し歩いて、ようやく1つみつけましたが、とても小さいものでした。
それでも彼女は感謝して、その欠片を火にくべました。
欠片はあっという間に燃え尽きて、ミミズみたいな煙が空へと昇っていきました。
彼女の胸は、すこしだけ熱くなりました。
次の日も欠片は降ってきません。その次の日も。
少女は次第に痩せていきました。彼女の胸は、冷えた鉄ように硬くなりました。
冷たさは少女の胸から全身へと広がっていきました。
彼女はもう歩くことすらできなくなって、今は黒々とした塊になった焚火の前に丸くなると、目を瞑りました
しばらくすると、胸がぽかぽかと暖かくなってきました。
目をあけると、彼女は自分が欠片に変身していることを発見しました。
動こうとしても体に力が入りません。骨も筋肉も欠片に変わってしまったのです。
今までとは景色の見え方も違います。そこはもう夢の島ではありません。
無数のゴミ山と夥しいカラスの群れが少女を見下ろし、ひどい臭いが漂っていました。
ゴミ山の向こう側では、恐ろしくなるような地鳴りが聞こえてきます。
目頭がむずむずしてきました。もしかしたら泣きたかったのかもしれませんが、もう彼女に眼はありません。
その時、強い風が吹きました。足元にあった焚火の残骸が一瞬だけ赤くなり、小さな火花を飛ばしました
火花は彼女の足だったところに落ちました。
ぽっと音を立てたかと思うと、彼女はじりじりと燃えはじめ、輝く煙が橋のように空へと伸びていきました……。

中年男が慌てて駆け寄ってくると、火を踏み消しました。
さいわい延焼はありません。男は胸を撫で下ろしました。
ふと地面に黒く残った跡をみると、男は変な気持ちになりました。
それはまるで、子供が体を丸くして寝転がっているように見えました。
作品名:降りそそぐ歌の欠片 作家名:西尾