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目立ちたいのね!山田君!!

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私が山田君を気になりだしたのは高校2年の春の事だった。
小学校の頃から一緒だった山田君。何度か同じクラスになったことがあるけれど、その印象はとても薄かった。無口で人付き合いが苦手なようで、毎回クラスで浮いた存在になっていた。私もこれといって話をした記憶がない。特長のないショートへアに平々凡々とした顔立ち、きっちりいれたワイシャツに、遅刻なども一切しない。正にからみどころのない、完全無欠の普通の生徒だ。……そう思っていた。……あの出来事が起きる前は。

高校2年の春、私は初めて山田君の隣の席になった。いつも同じ表情で、笑顔など見たことがない。退屈だ。もっと仲のいい人が隣の席に来てほしかったな。このままではあまりに居心地が悪い。こっちから話かけてみようか迷ってたちょうどその時、私の席に手をヒラヒラさせながら、友人の千恵がやってきた。
「やっほー、早苗。」
「おはよう、千恵。今日はなんだかご機嫌だね。」
「わかる?へへへ、席替えで、真田君の隣になったからさ。気合いいれてきたんだ。」
と、千恵は得意そうに手を顔の前にだした。指先がラメでキラキラと綺麗に輝いている。
「わ、すごい!マニキュア?綺麗だね。」
「でしょ!やっぱりさ女子に人気のある真田君と仲良くなるには、他の子よりも目立った事をして自分をアピールしないとね。」
千恵はお洒落で、顔立ちも整っている。モデルのようなスラリとした体型は同じ女の私から見ても憧れてしまう。
「千恵がやるから似合うんだよ。私には真似できないな。」
「そんなことないよ。早苗だって十分かわいいって。折角の高校生活なんだからさ、楽しまないと損だって。」
確かに千恵のいう通りだけど、私には好きな人もいなければ夢中になれることもない。きっとこの先の学生生活も、こんなモヤモヤした気持ちのまま過ごすんだろうな。

そんなモヤモヤした気持ちを抱えつつ、今日も無事に平凡な一日を終えた。
帰り道。友達と別れたあと、私は夕暮れの通学路を自転車にのって駆け抜けた。

翌朝、教室に入ると、いつも通り私の席の隣には山田君が座って……。
「……あれ?」
何だろう?この違和感。いつも空気のように存在感がないはずの山田君が妙だ。いつもよりそわそわしているような……。
「どうかしたの?山田君。」
思わず山田君に話しかけてしまった。山田君のまっすぐな目と私の目が合う。山田君は無言で首を横に何回か振った。
今までまったく気がつかなかったけど、髪型をちゃんとして、背をもうちょっと高くして、身体をもうちょっと鍛えたら結構イケメンかも……。いや、あと鼻をもうちょっと高くして、眉毛を整えて、目はもうちょっとタレ目がいいな。鼻と口の間隔が若干広いような……。うん、やっぱダメかも。
授業が始まる前、山田君が机の横に下がったカバンの中から、教科書を取り出そうと手をかけたときだった。
「ん?」
一瞬、山田君の右手の指先がキラッと光ったような気がした。そういえば今日山田君を見ていると、何となく右手を隠す動作が多かったような気がした。注意してみるとその正体が明らかになった。
(マニキュア?)
そう、マニキュアなのだ。それも右手だけ。それも薬指だけ。何故ピンポイントで?それよりも何故マニキュアを?まさか、実は山田ちゃん?
「ねぇ、山田く……。」
またしても山田君と目が合う。純粋でまっすぐな目は私の二の句をさえぎった。
聞けない。実は山田ちゃんですか?なんて、とても聞けない。
「ごめん、何でもない。」
そう言うと山田君は無表情のまま前に向き直った。私、変なやつだと思われたかな?ううん、変なのは山田君。何故急にマニキュアをピンポイントで?確か昨日はしてなかったはず。……昨日?そういえば昨日千恵とマニキュアの話をしたな。まさか、山田君、自分をアピールしたいの?そうか、そうなのね!目立ちたいのね!山田君!
薬指にピンポイントなのは山田君に激しい葛藤があった証。全部の指だと目立ちすぎるし、小指だけだとオネェ系と勘違いされるから。だからその他の指の中で一番目立たない薬指をチョイスしたのね。
山田君は授業中、自分をチラチラ見ていた私が気になったのか、何ですかと言わんばかりに私を見た。私は何でもないよ、というジェスチャーをしてみせた。私は山田君が気になって仕方なかった。
「えー、この問題わかるやついるか。」
普段手を挙げない山田君が、左手を挙げた。私は山田君の意外な行動にドキドキした。でも違うの。あなたが挙げないといけない手は左手じゃなくて右手なの。目立つ為には右手を挙げないといけないのよ。伝えたいこの思い。でも今は授業中。あなたに届くことは叶わぬ願い。
「えー、じゃあ佐藤。」
しかも、別の人がさされてるし。先生、山田君の勇気に少しは気づいてあげて。
山田君は何事もなかったように手を下ろした。いや、実際何事もなかったのだから当たり前の事だ。でもチャンスはすぐに訪れた。
「えー、じゃあこの問題がわかるやつは?」
山田君はすぐに右手を挙げた。すごいわ!山田君!……でもダメなの。どうして手をグーにしてるの?確かにそれはそれで目立つかもしれないけど、山田君はそれでは補いきれない程の薄いヴェールを纏っているの。……いえ、でもグーにしていたらさすがに先生は注意するんじゃないかしら。山田、手に何を握ってるんだ!なんて……。
「じゃあ、山口。」
またしても山田君は静かに手をグーにしたまま下ろした。
グーの音もでないとはこの事かしら。山……、までいってからのフェイントなんてひどい、ひどすぎるわ。山田君を弄ぶようなことをして、しかも山口君、答え間違えてるし。
そしてその日山田君が手を挙げる事はもうなかった。山田君は無表情のまま席に座っている。達成感があるようにも、悲しいようにも、呆然としているようにも見えた。ただ時折見える右手の薬指がキラリ、と美しく輝いた。
「山田君!」
無表情の顔がこちらを向いた。相変わらず、何を考えているかわからない。私は出来るだけ明るく、精一杯の笑顔で言った。
「また明日、頑張ろうね!」
山田君はこくり、と静かに頷いた。