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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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チエンソー

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チエンソーの回転をあげると、切りくずが瞬く間に土の上に積もり始めた。30センチほどの幹の太さであるが,気持ちのよいほど切れ味が良い.腕に伝わってくる振動もチエンソーの力強さを感じた。幹の3分の1ほどの所で切り口を変えるためにチエンソーを手前に戻した。切断する紅葉は高さが6メートルほどあり、狭い庭では低木の躑躅やサザンカが犠牲になる。出来るだけ他の木を傷めないように倒さなければならない。最良の方法は木に登り、少しづつ切断して行けばよいのだが、それには作業する者に危険が伴う。
 高木は今度は少し斜めに切断するために腰を少し上げた。片方の膝を土につけ、体制を固めた。木は自分の目の前に倒れて行くはずであるが、どんな事態になっても良い様に準備をしなければならない。再びチエンソーのエンジンの紐を引いた。乾いた音が響いた。振動が伝わってくる。そのまま切り口に当てると、無抵抗に木は切れて行った。
 「奥さん紅葉の落ち葉どうにかなりませんか」
隣に越してきた東京人からの苦情であった。その土地は空き地になっていて、売りに出されていた。今まで住んでいた老夫婦は子供が引き取った。更地にして不動産会社が売り出したのだ。その老夫婦は紅葉が紅葉始めると喜んでくれた。
「京都の紅葉思い出します」
その言葉は高木も嬉しく感じた。
妻は隣家に行き落ちた紅葉の葉を履き集めた。それは10日ほど通わなくてはならなかった。そのたびに『無ければね』などと言われたそうである。
メリメリっと木が倒れ始めた。計画通りの方向に倒れた。そこに新しく見えた景色があった。
五月晴れの青空である。東京人の自分勝手さに不満を感じながら、紅葉を切断したのであったが、紅葉が占めていたテリトリーからは新しい世界が生まれたことを感じさせてくれた。
 これで東京人とも挨拶は交わせる気持ちになった。多分東京人は苦情や自分の権利を主張することに馴れているのだろう、近所づきあいが無くても生きていけるのだろう。
 高木にはそんな事は出来なかった。東京人から挨拶が帰ってくるまで続けてみようと思った。妻にそのことを話すと明るく笑った。妻は同意してくれたのだろうと高木は感じた。






作品名:チエンソー 作家名:吉葉ひろし