ウルトラクールビズ
それから、何年が経っただろうか。
20××年、環境省は新たにウルトラクールビズを発表することになった。
これから、ウルトラクールビズの発表記者会見が行われる。
会場には、大勢の記者が集まり、何台かのテレビカメラも来ている。
環境省の役人が入場してくる。
司会者が口火を切った。
「それでは、これからウルトラクールビズの発表記者会見を行います。」
担当の役人が発言する。
「えー、今回発表するウルトラクールビズは、まさに逆転の発想に立ったものです。
皆様、ご注目ください!!
こちらが、ウルトラクールビズです!!」
役人の呼び込みに合わせて、ネクタイをキッチリ締めた1人の男性が入場してきた。
会場には、驚きが広まった。
悲鳴や怒号すら聞こえる。
役人は、冷静にウルトラクールビズの説明を始める。
「このウルトラクールビズは、先程申しましたように、逆転の発想に立った画期的なスタイルといえます。
従来のクールビズでは、一番最初にネクタイが取り払われました。
しかし、このウルトラクールビズでは、一番最初に取り払われたネクタイを着用し直しています。これは、紳士の象徴たるネクタイの重要性、伝統性を再評価したものです。
そして、逆に、ネクタイ以外の全てを取り払いました。
そのため、実に爽快で、涼しく仕事に取り組むことが期待できます。」
悲鳴や怒号がおさまらない中、司会者が質問を受け付ける。
混乱の中、手が挙がり、1人の記者が指名される。
「これは、何の冗談ですか!?
今日は、4月1日ではないんですよ。
こんなものが許されるわけがない!!
明らかに、公然わいせつ罪に該当するはずでは!!」
役人が応える。
「これは、何の冗談でもありません。
そして、このウルトラクールビズは、公然わいせつ罪にはあたりません。
なぜなら、紳士の象徴たるネクタイを着用していることで、わいせつ性は希薄化しております。
環境省としては、ウルトラクールビズは合法と考えております。
電力不足が深刻な昨今、我々は大きな一歩を踏み出す必要があるのです!!
我々環境省職員は、全員、明日よりこのウルトラクールビズを実施します。」
記者会見は、混乱の中で終了した。
翌日、環境省庁舎には、1人の職員も出社してくることはなかった。
環境省職員が、ウルトラクールビズに反対して職務をボイコットしたわけではない。
電力不足を深刻に考える志高い環境職員達は、全員、ウルトラクールビズ実施に賛成し、それを実施した。
その結果、環境省職員は、出社途中でことごとく公然わいせつ罪で逮捕されてしまった。
環境省が踏み出した大きすぎる一歩は、警察庁・検察庁と歩調がとれてはいなかったのだ。