Savior 第一部 救世主と魔女Ⅲ
「二人とも、ちょっと待ってくれ」
そう言ってアルベルトは二人の間に割って入った。リゼとキーネスは怪訝そうな顔でアルベルトを見る。
「何よ。いきなり」
「今の話、もっと安全なところへ移ってからにしないか。この子を休ませた方がいい」
「なに悠長なことを言っている。事は一刻を争うんだ。ぐだぐだ喋っている場合じゃない」
「いや、まだ大丈夫だ。それよりも」
それよりも、今シリルに悪魔憑きの話を聞かせない方が良い。彼女の様子を鑑みるに今すぐ悪魔祓いをしなくても状態が悪化するということはなく、むしろ不安にさせる方が問題だ。
悪魔は人の不安に付け込んでより強く魂に根を下ろすのだ。
「あのっ!」
酷く思いつめた様子でシリルが言った。顔色は青く、不安そうな表情だ。彼女は三人の顔を見回してから、意を決した様子で言った。
「悪魔憑きってどういうことですか―――?」
その時、遠くから奇妙な啼き声が聞こえてきた。聞きなれた耳障りな声。それと同時に草むらの中から、小さくて黒い塊が飛び出してきた。そいつはシリルに向かって飛びかかったが、素早く剣を抜いたアルベルトに斬り捨てられ、真っ二つになって地面に落ちる。しかし、そいつで終わりではない。草むらの中から、黒い魔物達が次々に集まってきた。
「だから速くしろと言ったんだ! 魔物が寄ってきたら悪魔祓いどころじゃないだろうが!」
そう言うと、キーネスは剣を抜いて、近くの魔物を斬り捨てた。もう片方の剣も抜き、別の魔物の喉笛を斬り裂く。リゼも剣を抜くと、シリルに迫っていた魔物の一体を斬り伏せた。
「それってどういう意味よ!」
「そのままの意味だ。そいつが魔物を呼び寄せてるんだ!」
キーネスがシリルを指さしてそう言ったのと、大きな魔物が一体飛び出したのとはほぼ同時だった。アルベルトが迎え打とうと剣を構え、魔物に向かい合う。しかし、彼が魔物を討つ前に、魔物とは違う影が現れた
「でやあああああ!」
気合の入った掛け声と共に魔物が一体、豪快に斬り裂かれた。血がしぶき、魔物の身体が重い音を立てて倒れる。倒された魔物の後ろにいたのは、大剣を携えた青い髪の青年。
「よう! またせたな!」
彼は快活にそう言って、得意げな笑みを見せた。
作品名:Savior 第一部 救世主と魔女Ⅲ 作家名:紫苑