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烈戦記

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第三話 〜凌陽関〜






『…あれ?』

気がつくと僕は布団の中にいた。
確か自分は馬に揺られながら関を目指していたはずだが。

その先が思い出せない。
ウトウトしていたのは覚えているが、布団に潜った覚えはない。

周りの様子を見渡せば既に自分が関についているのだとは予想できたが、布団に入るまでを覚えていないのは些か不安である。
何よりここが本当に関なのかが気になる。
僕は身体を起こして枕元にあった得物を腰に差して外へ出た。

外へ出ると人々の雑踏や談笑の声、そして訓練による練兵達の掛け声など様々な音や空気による独特の熱気が溢れていた。

この場所こそ父さんが管理している関、または街にあたる陵陽関である。
ここは元々この関の属する州、烈州を治めていた烈王が東南方面の蕃族の抑えとして建てた関で、関としての規模は国内最大で北壁、南壁の二つの重厚な城壁によって囲まれている。
当初は純粋な防衛拠点となっていたが次第に蕃族との交易が始まり関内の通行、滞在を奨励、次第にに人が集まり街になったという珍しい街である。
しかし、元々が関という事もあり他のちゃんとした都市と比べると狭くも感じる関内は昼は終始行き交う商人や民草によって埋め尽くされている。

『いつ見てもすごいな…』

自分の出てきた所はいつも父さんの所に来た時、いつも寝泊まりする関が管理する旅人用宿舎である。
僕は宿舎の管理人である年の少しいった男の人に声をかける。

『おはよ、おじさん』
『ん?おぉ豪帯じゃないか。良く寝れたかい?』
『うん』
『これからどっか行くのかい?』
『まず父さんの所へ行くよ』
『そうかい。一応豪統様が明日まであの部屋を借りてくれてるからまた戻っておいで』
『うん、ありがと』


そこから県庁、もとい関庁へ行くには人混みを掻き分けて少し歩かなければいけない。

『…よし、行くか』



『いやー、治安が良いと暇じゃの』
『じゃのー』

関庁の前で二人の警備兵が話をしていた。

『何というか、ここまで治安が良いとワシらは用が無いのではと思うんじゃが』
『それはそれでいい事じゃないか』
『うむ…蕃族と接しておる街なんじゃからもっとこう…蕃族が攻めてきた!!…とかあってもいい気がするがの』
『これ、物騒な事ゆうもんでねえ』
『んー…』
『…』
『…』
『…暇じゃの』
『うむ。…あ』
『ん?どうしたんじゃ?』
『そういえば今朝帯坊が来たとかゆうとらんかったか?』
『あぁ、確か来たとかゆうとったが、見かけんのぅ』
『うむ、実はひょっこりそこらへんから生えてくるんでねぇか?』
『ははははは!!確かにあいつは地面から近いからのう!!そこら辺にもう生えとるんでねえか?』
『ははははは』

ゲシゲシッ

『いで!?』
『足が!!』

『お前ら!!』

『あ、帯坊!!』
『いつから生えとった?!』

ゲシッ…ゲシッ

『あだ!!』
『いっ!?ワシも?!』
『同罪だ!!』

本当なら後ろから脅かしてやるつもりだったが…こいつら。

『会いたかったぞ!!帯坊!!』
『暇だっただけでしょ』
『いやいやそんな事はないぞ?ワシらはいつだってお主をからかいたくてウズウ…』

ゲシゲジッ

『いぎっ!!』
『だだだっ!!もうお前喋るな!!』

こんな感じで少し話をした。
帯坊と言うのはこの関の人、特に兵士の中での僕の呼ばれ方で、最初の頃は皆関主の子供という事で豪帯様と様付けで呼ばれていたのだが、何故か関にくる度に呼び捨てに近づき、今ではすっかり"坊"扱いである。
今、坊を付けずに呼んでくれるのは父さんと凱雲くらいだ。
だから僕は二人が大好きでその他が大嫌いだ。

『お前ら父さんに言いつけてやるからな!!』
『まぁ気を直せって帯坊。ワシらはお前が大好きで寂しかったんじゃよ』
『う、うっさいばーか!!』

僕はお前達が大嫌いだという事を伝えてその場を後にした。


『あー面白かった』
『あんまりからかってやるもんじゃないぞ?あれでも一応18を数えておるんじゃからな、そろそろ面子が出てくる』
『そりゃそうじゃが…帯坊は変わらんのー』
『…じゃな、大切に育てられておる』
『だが、いずれ帯坊も豪統様の後を継いでワシらの上に立つ時がくるのかと思うと…心配じゃ』
『…』
『今のご時世じゃ、まだここら辺は治安がいいが、中央では政治が荒れておるそいじゃないか。…いずれここにもその波はくるじゃろ。だから政治に巻き込まれたその時、帯坊は変わらず純粋でおれるのかの』
『そん時はワシらがしっかり支えてやればいいじゃろ。帯坊は帯坊のままでええ』

『…じゃな』



『まったく、あいつらは僕をバカにするが一応上司の子供だぞ?別に威張るつもりはないけど、もうちょっと接し方があるだろ…まったく』

愚痴が後から後からこぼれて来る
僕はブツブツ言いながら関庁の廊下を歩いていた。

『だいたい父さんも父さんなんだよ!!上司として自分の息子が坊扱いされてるのにいつも変わらずニコニコ見てるだけで…』

なんだろ…
そんなに背が低いのは威厳が無いのだろうか。
凱雲は昨夜ああ言ってくれたが、今の扱いをされた後だと将来が不安である。
いずれ父さんの後を継ぐ時がくる
その時は僕が彼らの上に立たないといけない。

『…父さんにばっかり頼ってられないな』

今度バカにされた時はハッキリ言ってやろう。
僕はもう子供じゃないんだと。

あるこれ考えてる内に父さんのいる事務室の前にくる。
父さんは大概昼はこの部屋で事務の仕事に追われている。

多分、記憶はないがまともな挨拶をまだ済ませていないはずだ。
それにこれから僕がこの関で暮らすにあたっての事を色々聞かなければならない。

トントン

『なんだ』

中から父さんの声がした。

僕は戸を開いた。



『父さん』
『おぉ帯よ、もう起きてたか』

事務机に資料を並べた父さんが椅子から立ち上がり、こちらへ来る
同じ家族なのに父さんの背は並にあり、僕と僕の前に立つ父さんが一度手を繋げばなんとも微笑ましい光景に見えるだろう。
まあ手を繋いだりはしないのだが。
成人ですし。
大人ですし。

『仕事を片付けてからお越しに行こうと思っていたが、中々終わらなくてな』
『別にいいよ、仕事終わるまでまってようか?』
『いや、折角席を立ったのだから休憩にするよ』

そう言うと父さんは背を伸ばした
骨が面白いように鳴るあたり、相当な時間席を立たなかったのだろう。

『なんの仕事してたの?』
『ん?いやな、商人達から宿舎の増設依頼が来ててな。…まぁ、見ての通りここには空地など既に無いのものだから古い宿舎を併合できないものかと探しておったんじゃ』
『大変だね』
『そんな事言ってられるのも今の内だぞ?いずれお前もやる事になるのだからな』
『一日机と睨めっこなんてやだな…』
『案外やってみると楽しいもんだぞ?』
『え〜、そんなの言うのは父さんくらいだよ』
『いやいや最初はきつかったが、小さい街がどんどん大きくなって行くんだ。それが子供を育てるみたいでなんとも…』
『実の息子をほっといて良く言うよ』
『いや、それは…』

わざとムスッとした態度を見せると父さんが本当に困った顔をする
作品名:烈戦記 作家名:語部館