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えっ!二十九歳?

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えっ!二十九歳?





この前は得体の知れないことばで読者を翻弄する老婆作家を誕生させた芥川龍之介賞だが、あの、最年少受賞者、綿矢りさが受賞したのは驚いたことに十年も前のことである。当時の彼女は十九歳だった。「蹴りたい背中」というはっとさせるタイトルの作品は、十年前に読んだのだから内容をはっきりと記憶している筈もないが、作品の鮮烈な雰囲気だけは残っている。
その以前の最年少受賞者が二十三歳での受賞だった。中上健次は1976年に「岬」で同賞を受賞している。戦後生まれの初受賞、ということで世間を騒がせたようである。
六月十五日の深夜、綿矢りさはラジオ放送で語った。声の感じは二十歳ちょっと過ぎの清純な乙女といった雰囲気だった。AKBのメンバーのひとりではないかというような、若々しい声だ。彼女が二十九歳になりましたと語った裏には、とても信じられないことですが、気がついたら二十九歳になっていたんですよ、という驚きと嘆きが込められていたような気がする。
ラジオに耳を傾ける側も、キツネにつままれたような想いだった。十年ひとむかしの芥川作家が、まだお嬢様風に喋っている。
インタビューに対する返答は大体想像のつくものだった。受賞後の苦難に就いて、彼女は語った。三年間全然書けない。出版社は好きに書いていいよと云う。困った。何度も書き出したけれど、何を書いていたのかが途中でわからなくなる。書きたいもののイメージはあるが、それとは大いにずれたものを書いている。それでも書いて書いて、朝を迎え、眠る。昼夜の逆転した生活が始まったとき、彼女は自らが小説家になったと感じたらしい。
「普通は受賞する前に蓄積してきたことを書くわけですけど、わたしは書いてから蓄積して行くことになります」
少女としての過去しかない若い女性作家が社会人としての小説を書くことは困難に違いない。
「人生を経験するために」彼女は受賞後にアルバイトを始めている。洋服販売を始め、様々な仕事を経験し、そのあとで筆を執る。
 物語の発展性を制限したくないので結末を決めずに書き出すと云う。最近の短編集「噴死」では失恋した若い女が三階の窓から飛び降りて足を骨折する。少女には書けない話だ。怖くなるような作品ばかりだと、ネットには紹介されていた。
 若すぎる受賞者が巷に消えて行く例は少なくないだろう。だが、綿矢りさはちょっと違うようだ。高い壁を乗り越えた作家が、今後どのようなものを書くのか気になるところである。


                          了
作品名:えっ!二十九歳? 作家名:マナーモード